FMC東京 院長室

遺伝カウンセリングと出生前検査に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

羊水検査・絨毛検査はどのくらい危険なのか?

当院を受診される方の中に、一定の割合で羊水検査などのいわゆる侵襲的検査について、強い抵抗感をお持ちの方がおられます。その理由の主なものは、流産の危険性や胎児に針が刺さることで問題が起こるのではないかということを懸念されてのことのようです。実際、いくつもの産科診療施設で、医師から「危険な検査だから、なるべく行うべきではない」といった趣旨のことを言われることがあるようです。実際に臨床現場で遺伝カウンセリングをおこなっておられるある高名な先生の講演でも、羊水検査について、「赤ちゃんに針を向ける検査」という表現がされているのを耳にしたことがあります。絨毛検査に至っては、我が国での施行件数が少ないことも相まって、羊水検査以上に危険な検査だと話されることもあるようです。羊水検査や絨毛検査は、それほど危険な検査なのでしょうか。

年間約400万人が出生する米国では、染色体検査を目的とした侵襲的手技が年間20万件(絨毛検査44,000件、羊水検査156,000件)行われています。これに対して、約100万人が出生するわが国では、2012年に羊水検査の実施数が、年間2万件弱(前年比約4,000件増)になったという報告がありました。

羊水検査、10年で倍増 出生前診断に関心高まる :日本経済新聞

ここには大きな数の開きがあります。

参考:出生前診断の現状と今後の展望(斎藤仲道:福岡医誌104 : 326-333, 2013) http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/1398600/p326.pdf

日本では、そもそも出生前の検査をうけている比率が、極端に低いのです。諸外国と比較すると、先進国の中で日本だけが特殊な国だということがわかります。

さて、羊水検査・絨毛検査の安全性についてですが、最近になって新しい研究結果がいくつかでてきました。その中でも特に大規模かつしっかりとコントロールされた研究は、2016年の国際産科婦人科超音波学会誌に掲載された、デンマークの全国調査の結果でしょう。2008年から2010年までの3年間における147,987件の単胎妊娠を対象とした調査研究です。ここでは、絨毛検査・羊水検査のいずれも、流産・死産の増加には繋がっておらず、この結果はいずれの検査においても検査と関連したリスクは極めて低いことを示していると結論付けています。

長年にわたる調査としては、2017年の国際産科婦人科超音波学会誌に掲載された、オランダの2つのセンターにおける2001年から2011年までの11年間の、妊婦の年齢が36歳以上である29201妊娠を対象とした後方視的研究があります。この研究では、羊水検査をおこなうことで増加する流産リスクは0.48%(1:208)、経腹的絨毛検査におけるそれは1.03%(1:97)であり、これまで考えられていた数値(羊水におけるリスク1%)よりも低いと述べています。それだけでなく、これらのリスクは、これまでの研究報告と同様に経験豊富な術者が行った場合、0.17〜0.52%とより低かったと記しています。

多くの研究結果が、これらの検査は経験を積むほどリスクを低減できることを示しています。しかしながら、前述したようにわが国ではこれらの検査の施行件数そのものが少なく、また検査を行っている施設も数多く分散しています。このため、一施設あたりの検査施行件数はかなり少ない現状があります。また、私たちはこれらの検査について、基本的に国際産科婦人科超音波学会の指針にそった方法で行っていますが、わが国でのこの検査の行われ方は様々で、それぞれの施設独自の方法が指導医から後輩に引き継がれて続けられている現状があります。こういった現状からは、たしかにわが国におけるこれらの検査のリスクは、海外からの報告で示されているように低くはないと推定されます。しかしながら、経験豊富な施設を選択すれば、多くの方が恐れているほど危険な検査でもないし、怖い処置でもありません。実際に検査をお受けになる方々に対応していると、みなさんちょっと心配しすぎなのではないかと思うことが多いです。検査をおこなう前と、検査が終わった後で、検査をお受けになった方の表情や振る舞いが大きく変化することを実感しています。実際に検査をお受けになった方々が、そんなに心配のない検査だったよという感想をたくさん発信していただけるとありがたいと思っています。