FMC東京 院長室

遺伝カウンセリングと出生前検査に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

わが国におけるNIPTの今現在についてまとめておく (2)

NIPTがなぜ画期的だったかというと、それはなんといっても21トリソミーの検出感度が高く、見逃しが少ないことに他なりません。トリソミーという染色体異常は、妊婦の年齢が上昇するとともに増加することが知られていて、かつ近年、妊婦の年齢はどんどん上昇する傾向にありますから、トリソミーをもつお子さんの出生数も増加傾向にあります。しかし、わが国においてはそういったお子さんたちの生育を支援する体制の整備は、国レベルでも社会レベルにおいても遅れています。こういった状況から、妊娠・出産を考える女性の不安は高まっています。

現在、わが国においてNIPTの対象とされている妊婦は、『指針』のV-2 対象となる妊婦 によると、

1. 胎児超音波検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者。

2. 母体血清マーカー検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者。

3. 染色体数的異常を有する児を妊娠した既往のある者。

4. 高齢妊娠の者。

5. 両親のいずれかが均衡型ロバートソン転座を有していて、胎児が13トリソミーま

たは21トリソミーとなる可能性が示唆される者。

となっていますが、NIPTコンソーシアムの報告によると、受検者の平均年齢は38.3歳で、検査適応の94.2%は上記の 4. 高齢妊娠の者 ということになっています。

では実際に、高齢妊娠の者にあてはまる人たちのうちのどのくらいの人が検査を受けているのでしょうか。

コンソーシアムの報告では、2016年にこの検査を受けた人は13,600件です。NIPT実施施設はコンソーシアムに参加していない施設もありますが、それらを入れてもだいたい14,000件と言えるでしょう。一方、2015年に生まれた赤ちゃんのうち、その母親が35歳以上であった数は、282,159人です。NIPT受検者の全てが35歳以上ではないことや、比較する年の違いなど多少の増減はあるものの、おおまかにみて35歳以上の妊婦さんの中でNIPT検査を受けている人の割合は約5%にすぎません。

7月17日の記事:羊水検査・絨毛検査はどのくらい危険なのか?の中で、参考文献としてあげさせていただいた、斎藤仲道先生の論文の中にも、出生前検査に関する世界の状況についての記載がありますが、(それが良いことなのか悪いことなのかは別として)わが国の状況だけが他の国と比べて大きく違っているのだという事実を、もっと多くの人たちが認識するべきだし、なぜわが国だけがこれほどまでに違ってしまうのかについて、よく考察しなければならないと思います。

この記事を書いている最中に7月16日深夜に毎日新聞から記事が出ていたことがわかりました。新型出生前診断 増加続く 異常の94%が中絶

この記事の記載では、受診者は毎年増え続けている。とされており、それに続く中絶を選択する方がほとんどである旨の記載およびその後の文章とあわせて、“人々は中絶を目的として検査を受けて、命の選別をしようとする人の数は増え続けている”ことが強調されているように感じられます。このような文脈で記事が構成されることがたいへん多いのはなぜなのでしょうか。新聞社にはなにか画一的な規範があるのでしょうか?疑問に感じます。

ほとんどの妊婦さんは、はじめから中絶を希望しているわけではありません。赤ちゃんが元気に生まれてきてほしいという希望が検査を受けるベースにあります。中絶を選択した方たちも、いろいろな葛藤を経て、苦汁の決断をしておられるはずなのです。そういった方たちがまるで悪いことでもしたような論調、検査を受ける人が増えていることが問題であるかのような論調で述べられることによって、この検査を受けることについて必要以上の罪悪感を植え付けてはいないでしょうか。

現実には、増え続けているというほど増えてはおらず、むしろ検査を受けることを希望しておられる方々を十分にカバーできるほど提供体制は整っていません。そのために、学会の指針に従わずに検査を行っている施設に、かなりの数の妊婦さんが流れているという話を耳にしています。今の検査のありかたについて、早急に見直すべきであると思います。