FMC東京 院長室

FMC東京クリニック 院長のブログです

ついつい専門的になってしまって、すみません。− 胎児とはどういうものなのか、について。

学会関連の堅い話が続いたので、ここらで少し日常診療の話題を提供したいと思います。

実は、日常診療で気になっていることはたくさんあって、いろいろと書き溜めているのですが、文章がまとまってないものが多く、公開されずにいます。今後、まとまったものから公開していこうと思っています。

今回は、超音波検査中にいろいろと聞かれることの一つについてです。

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超音波診断装置の性能が良くなるとともに、妊娠の比較的早い時期から、素人目にも胎児が人間の形になってきていることが、はっきりとわかるようになってきました。

私たちが行なっている妊娠11週から13週の検査において、3D/4D超音波を用いて胎児の姿を立体的に表示すると、その時には外見的にはもうすでに人間の形が出来上がっていますので、もうすっかり人間なんだなあとお感じになると思います。人間の形をして手足を動かしたりすると、自分たちと同じように考えたり行動したりしている感じがするのも無理はないでしょう。みんないろいろと想像します。胎児はお腹の中で一体何をしているんだろうか?何を考え、感じているんだろうか?そして妊婦さんやご家族は私にいろいろと質問されるのですが、だいたい同じような疑問が湧くのかよく聞かれることがいくつかあります。

例えば胎児が動き回っていると、「赤ちゃんは寝ることがあるのですか?」と聞かれます。あるいは、動いていた胎児が動きを止めてしばらくじっとしていると、「寝ちゃった。」とおっしゃいます。これに対して私はいつも、「そもそもこの時期の胎児は、起きるということがないのですよ。」とクソ真面目に答えてしまいます。本当に申し訳ないと思うのですが、それが事実です。私の仕事は、胎児が検査時期に見合った発育・発達をしているかを見極めることですし、当院における検査は純粋にその確認を目的としています。受診する方々にとっては、想像の世界が広がることも情緒的には良いのかもしれませんが、当院で検査を受ける際には、基本的に科学に基づいた判断をしているということをわかっていただき、そういう冷静なものの見方の必要性についても、理解していただけるとありがたいと思っています。

胎児というものは、非常に未熟な存在です。妊娠8週や9週では、心拍は確認できるものの、まだ人間の形をしていません。10週でもまだお腹の壁は完成していません。11週ではじめて、人間らしい形になるのです。やっと外見的には人間らしくなったところで、検査をしているのです。外見的には人間のようでも、中身はまだまだ全然です。

胎児期の発育・発達の速度は、その後に生まれてからのどの時期よりも、急激です。ほんのわずかの間に、どんどんと複雑な構造が形作られていき、人間らしくなっていきます。それでも、生まれて来て数時間で立ち上がって歩き出す動物たちと違って、人間の赤ちゃんはまだまだ未熟なのです。ましてや、胎児はまだまだつくられている途中段階に過ぎません。

例えば、胎児がすごく元気に動き回っていると、「こんなに動いて、大丈夫なんですか?」、腕を顔の前で動かしていると、「顔をこすってる、なんか痒いのかな?」、3D画像を表示すると、「狭くて窮屈そう。」、などなどの声が聞かれます。なるほど、人間の形に見えると、もう人間として一人前のような感じがするのだなと思います。

胎児が子宮の中で一所懸命に(ということもないとは思いますが、、、)動いているのを見ると、いろいろな想像がかきたてられ、お腹の中の生命の存在を愛おしく感じることは、すごく良いことだとは思いますし、そういう気持ちを大切にしてあげたいとも考えます。しかし、それと同時に私たち専門家は、科学的事実に基づいて物事を冷静に判断することも忘れません。

実際には、胎児というものは未熟なものですから、まだ何も考えることはできませんし、何も感じていません。例えば羊水穿刺の際に針で突かれたとしても、痛くも痒くもありません。狭くて窮屈ということもないし、苦しいとか辛いとか感じることはありません。生まれて来た赤ちゃんだって、まだ何もわからないのに、妊娠初期の胎児に何かがわかるわけがないのです。こういうことを言うと、無粋に聞こえてしまうかもしれません。しかし、事実は事実なのです。

私は、一般の方々が、いろいろなイメージを持って、胎児に愛着を感じたり生命の尊さを感じたりすることは、とても大事なことと思っています。みなさん自由に想像していただいて、そう言う気持ちを家族で共有していただきたいと思い、検査時間の中でも、少しでも楽しんでいただける時間を作ろうとしています。しかし、医師などの専門家の立場としては、無粋なようでも、冷たく感じられたとしても、冷静に事実を伝えることも大切だと考えています。たとえば、赤ちゃんが生まれてくる前からいろいろなことを考えたり記憶していたりしているとか、親を選んで来たとか、そういった情緒的な話は、ある特定の場面や特定の人に対しては良い効果につながることももしかしたらあるのかもしれませんが、医師の立場で言うべきことではないと考えています。そして、一般の方々についても、あまり普段慣れていないかもしれないけれど、私の堅苦しい説明が、科学的なものの見方、論理的な考え方をしようと感じるきっかけになってくれれば良いと考えているのです。

と言うわけで、私は今日も無粋な話をして妊婦さんや家族の人たちをがっかりさせているかもしれません。「妊娠10週台の胎児の脳はまだまだ未熟なので、寝るとか起きるとかはないんですよ。起きると言う状態は、脳がだいぶ発達してから初めて明確になるんです。」などと訳のわからない説明をしたりして。