FMC東京 院長室

遺伝カウンセリングと出生前検査に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

不育症患者が増えている!? ーーつづき

前回、不育症が疑われた人たちが受けているアスピリンやヘパリンを用いた治療について、その多くの人たちにおいてはこの治療は効果的ではないか、あるいは必要ないと書きました。その理由について述べます。

習慣流産の方に対する治療として、アスピリン投与が有効なのではないかという話は、実はかなり以前からありました。私は、大学病院に勤務していた当時、膠原病を持ちながら妊娠している人たちを多く見てきました。おそらくこの当時は、この種の合併症を持つ妊婦さんを日本で一番多く診ていたと自負しています。今から20年ほど前のことです。このころ、抗リン脂質抗体というものが注目されるようになり、流産を繰り返す妊婦さんたちのうち、この抗体が陽性の方達を対象に、色々な治療の試みがなされた中で、有力視されたのがアスピリンでした。私たちもアスピリン投与はかなり行いましたし、膠原病合併の方の場合にはステロイド投与と併用したり、ケースを限定して血漿交換療法という試みを行なっていたこともあります。いろいろな試みが行われた結果、最終的に効果が確実だとされたのが、「抗リン脂質抗体症候群」と診断された方に対する、ヘパリン・アスピリン併用療法で、アスピリン単独では効果は明らかでないとされました。現在でも、確実に言えることはこの最終結論のみです。

抗リン脂質抗体症候群」には、札幌クライテリア・シドニー改変と呼ばれる明確な診断基準があります。(2006年、国際抗リン脂質抗体会議)

つまり、この診断基準に当てはまる人において、ヘパリン・アスピリン併用療法が効果的であるということのみが確実にわかっていることなのです。

では、最近増えているアスピリンやヘパリンの投与を受けている人たちは、この診断基準を満たしている人たちなのでしょうか。抗リン脂質抗体症候群の患者数が増加しているのでしょうか。違います。

当院に来られる方々をみる限り、これらの治療を受けておられる方たちは、以下のような方が多いようです。

1. 流産の原因はよくわからないが、次は流産したくないという気持ちもあるだろうし、まあ“お守りがわりに”アスピリンをのんでおくことにする。

2. 数々の凝固系や抗リン脂質抗体の検査をやってみたところ、正常値の範囲内ではない結果が出た項目があったので、治療としてアスピリン投与または併用療法する。

だいたいこの2パターンなのですが、少しバリエーションもあります。

1.の場合は、特別な検査は行っていないことが多いです。たいした根拠もなく、副作用が少ない比較的安全に投与できる薬剤ということで、使用しやすいという面もあるし、近年アスピリンは、妊娠高血圧の予防効果について注目されていることもあって、使用に抵抗がないことも後押ししていると考えられます。

2. が最近目立つのですが、何しろたくさんの項目の検査をします。そもそも抗リン脂質抗体症候群というものは、診断基準にも示されているように、血栓症(血液の塊が細い血管に詰まることによって起こる数々の障害)が臨床所見の第一に来るような、血液がかたまることが問題になる疾患です。血液がかたまることにつながる因子には、様々なものがあって、そのいずれに問題があっても、同じように血栓症が生じる危険につながるので、血栓症を起こしたような場合には、複数の血栓傾向の検査が必要になります。その複数の検査のいずれが問題かを知ることによって、治療戦略を考えることになるわけで、それぞれ違った病態のはずなのですが、なぜか不育症を扱う上では、どの項目であろうが一つでもあやしい数値が出たら、アスピリン投与またはヘパリン併用という治療につながっているようです。最近よく行われている検査項目は、プロテインS、プロテインC、血小板第XII因子、抗PE抗体、といったようなものですが、たくさんの検査を行って、一つでも微妙な数値があったら、軒並みアスピリン投与になって、かつこのアスピリンは、妊娠後半期まで継続されています。そして、この治療を受けている方の多くは、この薬をやめたら流産してしまうのではないかと恐れていて、律儀に指示された通りに服用を続けています。

このようなケースが最近、本当に多いと感じます。この問題点について、次回は具体例も交えて記述していきたいと思います。

                       ーー つづく