FMC東京 院長室

遺伝カウンセリングと出生前検査に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

不育症患者が増えている!? ーーつづき3

『副作用の心配が少ないなら、気休めの医療でも何もしないよりいい。』という考えで薬剤を投与することは良くないと、前回書きました。日本ではこのような医療が多いのではないかと思うのです。特に、薬が何かを解決してくれるという気持ちの方は多く、それが本当に効果的かどうかについては疑いを持たない印象です。医師が処方すれば効果があるはずという信頼があるのでしょう。しかし、医師の処方が本当に意義があるのか疑問であるものは実は数多くあるのです。

例えば、軽い風邪でもすぐに医者にかかって、薬を処方してもらう。市販薬の宣伝で、「薬を飲んで、早く治そう。」という主旨のものを見かけますが、単に症状を抑える薬では原因に対応しているわけではないので、早く治るということはないはずです。むしろ症状を抑えて無理をして動いたりすると、治りが遅くなる可能性すらあると思われますが、この種のCMに違和感を感じることなく素直に受け入れている人は多いのではないでしょうか。

妊娠中の問題でいうと、切迫流産という診断で使用されている薬剤も、効果的とは言えないものが多いのです。私が医者になった頃(30年ほど前です)には、流産を抑えるには子宮収縮を止めれば良いと考えられていたので、平滑筋の収縮を抑える薬がよく使われていました。また、出血があれば、止血剤が併用されていました。このいずれの薬剤も、現在では妊娠初期の流産を抑える効果があるとは考えられていません。海外では、切迫流産という診断でこれらの薬を使うことはまずありません。しかし、日本の産科診療の現場ではこれが未だに使用されていたりしますし、保険診療としてまかり通っていたりします。

こういったことがなくならないのは、医師の側にも問題があるし、受診者の側にも問題はあります。医師はきちんと、科学的知見に基づいて処方を行い、不必要な場合には説得力のある説明を行うべきなのですが、薬を出さないと納得してもらえないということを恐れて迎合します。勇気を持って薬は不必要と説明する医者は、「薬も出さない悪い医者」と言われてしまい、悪い評判が立つと受診者数が減って、収入に響くということにつながります。

何かにすがりたい気持ちは理解できるのですが、薬や治療というものを過信しないことが必要です。医師にはきちんとした説明と説得力が、受診者側には耳を傾ける姿勢と冷静な判断力が求められます。

 

さて、標準治療ではない癌治療のクリニック(主に免疫細胞療法や温熱療法などを自由診療で行なっている)が横行していることが、最近話題に上るようになり、これはまずいという認識が、少しづつではあるものの広がりを見せるようになってきました。(参考:〝インチキ治療〟さえ見過ごされる日本のがん対策の現状 WEDGE Infinity(ウェッジ))この種の治療法を“売る”ことは、明らかに人の不安・弱みにつけこんだ商法です。これは人の命に関わることですので、それと比べると、そこまで悪質ではないと思えるかもしれませんが、また流産してしまうのではないかという不安につけ込むことも、同根の問題だと思います。

癌にしろ、不育症にしろ、特殊な治療を行う医師たちは、必ずしもお金儲けのために人を騙そうという気持ちで行なっている人ばかりではありません。自身の研究結果を元に自信を持って、まだ誰も気づいていない世界をリードする最先端医療を行なっているという自負を持って臨んでいる医師もおられると思います。しかし、科学の世界では、ある個人の研究成果だけでは、物事が証明されたとは言い難い部分があり、多くの人を対象にきちんとした研究デザインのもと行われた研究結果や、複数の研究者による追試験での確認などがあってはじめて、科学的事実と認定されます。特に臨床の場における人を対象とした治療に薬剤を用いるにあたっては、効果と安全性がきちんと確認されてはじめて行われるのが筋だと思います。(かくいう私自身も、20年ほど前には、大学病院で研究的な治療を行なっていたこともあります。これには現在私が主張していることに反することを行なっていた側面もあります。その頃の反省も込めて記載しています。当時と今とでは、治療に対する考え方も、医療界ではより洗練されてきているはずだと信じています。)

自分自身の研究成果には、強い自信をお持ちなのかもしれません。研究成果の賜物だと言わんがばかりに発表した論文や学会報告を並べてホームページに記載しておられる方もおられます。一般の方々は、そういったものをご覧になると、きちんと証明されている方法なのだとお感じになる(学術誌ではない普通の雑誌に載っている情報ですら無条件に信じる方も多くおられます)かもしれません。しかし、学会発表は単なる自己主張の場でしかないことも多いし、学術誌にしてもピンキリです。宣伝のために利用できる機会はいくらでも見つけることは可能なのです。

現在お受けになっている治療が、明らかに根拠のあるものでないならば(例えば、血液検査結果ではっきりと異常値が出たわけではないが、“グレーゾーン”の値が出ているのがあるので、とりあえず薬を使っておきましょう。というような場合)、その治療に意味があるのかないのかは、はっきりとはわかりませんが、少なくともそれにすがる意味はないと思います。その治療をやめた途端に流産してしまうというようなことはありません。治療を行う医師も、このあたりもっと誠意を持って、不安を煽るだけでなく丁寧な説明の元で、商売優先にならないようにしていただきたいものだと思っています。

         

                           終わり