FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

不便を強いられる妊婦さんのケースから、日本の現状について考えてみる。

当院には、いろいろな相談や問い合わせが来るのですが、先日以下のようなケースがありました。

 

・かかりつけのクリニックで双胎妊娠(ふたご)であることがわかる。

・ここでは管理が難しいと、少し大きい病院(総合病院)を紹介され、受診。

・そこでも双胎は診ることができないと言われ、周産期センターのある病院へ紹介される。(そもそもなぜ診ることのできない病院を紹介したのかが不明)

・紹介先ではNIPTを行なっているので、高齢のためこの検査を希望することを伝えたところ、うちでは双胎の場合はこの検査が受けられないと言われる。(これも疑問だが)

・それなら双胎でも受けられるところで検査を受けますと伝える。

・他院で検査を受けるなら、当院では妊娠管理できません。と言われる。(この意地悪は一体何?)

・仕方なく検査を受けることのできる別のセンター病院に転院することにしたが、初診予約がとれたのがだいぶ先で、妊娠週数が進んでしまうので心配。

・この時点で当院に相談

 

という流れなのですが、一体どうしてこのようなことになってしまうのでしょうか。

この後、当院では人的ネットワークを使用して、この方の希望が叶えられる道筋をなんとか作ることができたのですが、当院に相談があったから個人的なつながりでなんとかなっただけで、これは氷山の一角に過ぎないでしょう。

(当院としても、時間と労力を割いて、何の収益にも繋がらず、完全にボランティアです。←これは愚痴です)

希望する診療が受けられない人や、誤った選択に導かれてしまっている人など、日本中に大勢おられることと想像します。体制の不備、情報の不足、経済的問題、医療者の知識・経験の不足など様々な解決すべき問題が山積です。

最近、疑問に思うことは、産婦人科医師の中にも「胎児の状態についてわかることをわかる時期にきちんと判断する」ということについて、積極的でないばかりか「わかる必要がない」「知るべきでない」と考えておられる方が、少なからずおられるらしいということです。「知りたくない人に知らせることはしない」というのであれば理解できます。しかし、「知る」か「知らないでいる」かについて(それは胎児の異常そのものに関してだけではなく、検査方法やその時期についての情報に関してさえ)、医師の個人的な考えに基づいて決められてしまうのは、いかがなものでしょうか。

世界の他の国や地域からみて、極めて特殊な状況にある日本の出生前検査の現状について、あまり疑問に感じず追随している医師が意外に多いことは、これをコントロールしている立場にいる医師(偉い先生)の指導・教育を受けた結果なのかもしれません。また、もともとこの分野は日本では制限されてきた歴史があるために、医師たちの知識や経験として普及してこなかったことも影響していると思われます。

これから生まれてくる赤ちゃんは、これからお産をする世代が育ててゆくのですから、これからの社会をつくっていく世代が、もちろんこれまでの議論や経緯について学んだ上で、新しい世代が作る新しい規範に基づいてどうすることがより良いのかをよく考えていく必要があると思います。少し古い世代のお医者さんたちの個人的な見解によって、妊婦さんたちの将来が左右されるような事がなくなっていくように努力していきたいと考えています。これからの自分たちの問題として、若い世代の人たちには当事者意識を持って声を上げてもらいたいと思うし、若い世代の医師たちも旧世代の意見を追随するばかりではなく、自分の頭で考えて行動できるようになってほしいと思います。