FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

混沌としてきたNIPT事情。どうする日本医学会、日本産科婦人科学会。

先日、うちのスタッフがこんなサイトを見つけました。ここで紹介すると宣伝になるので、本当はリンク貼りたくないのですが、見ないとわからない部分もあるので、貼ります。

出生前診断におすすめの東京のクリニック5選【染色体検査等に対応】

このサイトはランキング形式になっており、NIPTを行なっている施設のランクづけをしているのですが、ページ内の表現を借りると、『出生前診断クリニックランキング』として第1位から第5位までが並べられています。

このうち、第2位にランク入りしているのが、『NIPTコンソーシアム』なんですが、これは団体名でクリニック名ではありません。日本医学会認定施設の中の多くがこの団体に所属しているので、それら全てを一絡げにしているわけです。

そして第1位に輝いているのはEGクリニックです。以下、第3位YCクリニック、第4位Mクリニック、第5位Hクリニックと続きます。いずれもNIPTを売りにしているいわゆる『無認可施設』な訳ですが、これらの施設は正確にいうと、出生前診断施設ではありません。なぜなら、NIPTは出生前検査ではあるけれど診断しているわけではないからです。そして診断の手段である羊水検査や絨毛検査はこれらの施設では行うことができません。そういう技術のある医師はおりませんし、八重洲セムを除くとそのほかの施設には産婦人科医もいません。

このページは、おそらく東京EGクリニックのマーケティング戦略に関係したものであろうと思われます。ほかの施設も紹介しているふりをして、自分のところを1位に置き、次にコンソーシアムを挟むことで、1位の施設がより目立つようにできています。クリニック名の紹介のところではわざと『東京』を外して、関係のない第三者が客観的に評価しているふりを装っています。

ちなみに、ここに出てきている施設のほかにも、『A クリニックG』『NIPT Hクリニック』といった、認可とは無関係にNIPTを扱うクリニックが続々と出てきています。

現在、これらのいわゆる『学会に認定されていない施設』が行なっているNIPTの件数は、全国80カ所を超える数の『学会認定施設』が扱っている件数を上回っているとのことです。日本医学会、日本産科婦人科学会、日本人類遺伝学会などが施設認定を行って実施施設を厳しく限定していることが、意味をなさなくなってきているわけです。いったい何をやっているのか、よくわからなくなってきました。私も人類遺伝学会の評議員として、正直情けないです。(当院では、中村、田村の2名が日本人類遺伝学会の評議員に名を連ねています)

そもそもこの検査が日本に導入されるようになった2013年の時点で、当初より危惧されてきたことは、この検査は採血だけでかなり正確な結果が出せるので、本来のこの分野の専門科であるはずの産婦人科を専門としていない医師でも手軽に検査を扱うことができることが予想されることでした。そうなると、検査前の説明もいいかげん、検査結果の解釈も不正確、その後の対応も丸投げ、というような事態が考えられ、そうならないように体制を整えて慎重に扱うようにしなければならないと考えられてきました。

それなのに、その後作られた指針や認可の仕組みは、専門家であるはずの産婦人科医には強い規制をかけて自由に扱うことができない状況にして、その一方で産婦人科とは関係のない医師が平気な顔をして(悪い言い方をすれば)飯の種にするという、一番心配されていた状況よりもより悪い状況を作り出しているのです。

先日、ある埼玉県内の産婦人科医院に、前述の第5位・Hクリニックから電話がかかってきて、何かと思ったら「出生前検査を希望される方をうちに紹介してもらえませんか」というような宣伝の電話だったという話を耳にしました。産婦人科の先生たちはこの状況、頭にこないんですかね。日本産婦人科医会の先生たちはどう思っておられるんでしょうか。日本産科婦人科学会はどう対処するおつもりなのか。

臨床研究が終了するという話題が出た時に、NIPTが一般診療になることに危惧を表明する論調は多くみられました。でも今はそんなこと言ってる場合じゃない状況になりつつなるのです。なんか論点ずれてませんか、これどうするの?

私たちの状況はどうかといえば、現在『日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会』に、施設認定の申請書を提出しています。当院は、出生前診断を専門に扱い、十分な実績を積んできた施設で、院長は臨床遺伝専門医指導医で産婦人科専門医であり、小児科専門医1名も臨床遺伝専門医です。認定遺伝カウンセラー2名が在籍しており、非常勤医師の2名は臨床遺伝専門医、2名はその候補として専門医試験の受験準備中です。数多くの出生前検査・診断、遺伝相談を請け負っており、羊水検査・絨毛検査実施数は首都圏随一を誇る施設です。

この陣容と実績を引っ提げて、施設認定登録の申請をしている最中ですが、さてどのような結果となりますか。申請書を送付して以来、現時点で約1ヶ月半を経過していますが、学会からはなしのつぶて、なんの反応もありません。申請書を受け取ってくれたのか、審査は行われているのか?全くわかりません。

私たちのような専門施設が検査を扱うことができないままで5年も経過している中、はじめに示したような眉唾物のランキングに並んでいるようなクリニックに、妊婦さんたちが殺到するような現状を、みなさんどう思われますか?

この状況を作り出した責任者は誰なんだ。こうなってしまったことをどう考えているのか。どのように事態を収拾しようとお考えなのでしょうか。

日本の妊婦さんたちと、そのご家族、これから新しい命を迎えようとするこの社会に生きる全ての人が、正しい形で検査について理解して、余計な心配ごとに振り回されることなく、安心してきちんと診断を受けることができる。という、ごく当たり前の状態に、少しでも早くこの国がなっていけるよう、私たちは今後も努力を続けたいと思います。