FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

NHKハートネットTV『シリーズ 出生前検査』を見て 私の視点(2)

ようやく第2回を見ることができました。

7月9日に放送された、「シリーズ出生前検査(2)『それぞれの選択を、支えるために』 」です。

この放送におけるテーマは、3つの局面のうちの

3. 検査の結果を受けて、産む/産まない の部分で、

この選択に関わるいろいろな取り組みを取り上げていました。

これまでにこの国にはなかった取り組みとして、

1. NPO法人 親子の未来を支える会が運営している、オンラインサポートサービス『ゆりかご』

2. 大阪医科大学附属病院『胎児ハイリスク外来』と、精神看護専門看護師の宮田郁さんの関わり

の二つが紹介されました。

 

 親子の未来を支える会は、私も以前から応援しているグループで、理事長の林伸彦医師とは約7年前から連絡を取り合っています。ここで紹介されていた取り組みも素晴らしいものでした。彼らが実践している、「産む/産まない、どちらの選択でもしっかりとサポートする」という姿勢は、私たちも常々受診者さんにお伝えしていることです。私たちも、自院でできる遺伝カウンセリングと情報提供、医療連携への繋ぎを通して実践してきましたが、一医療機関で行うには限界があります。彼らの取り組みは、医療者だけでなく、経験者や実際に子育てしている人などのピアサポートも含めた仕組みで、アクセスしやすいオンラインの形をとっている点も良くできていると思います。ここでは例えば、障害のあるお子さんを産んで育てることを選択した方が、中絶を選択した方に対して、「私たちはどちらも頑張ったよね。」と励まし合うという実例が示され、医療従事者ー患者関係では得られない深いところでの心の通じ合いが実現していると感じました。

 私たちのクリニックも、受診者さんと検査を行う医療職(医師・看護師・助産師)とだけの関係性に陥らないように、認定遺伝カウンセラーの役割を大きくして対応するとともに、医師も含めた全てのスタッフが白衣を着用しないようにして、話しやすい雰囲気づくりに努めています。しかしそれでも、認定遺伝カウンセラーに対して、「カウンセラーの先生」というような言い方をする受診者の方も多いようです。私たちは専門的知識に基づいた対応が重要であると考えていますが、専門職ではない経験者によるピアサポートという形も意義のあるものだと思いました。

 大阪医科大学附属病院での宮田さんの存在も、印象的でした。

 問題を抱えた胎児と妊婦さんに寄り添い、出生前から出生後まで連続して関わり続ける彼女の存在は、出産までは産婦人科、出生後は小児科というともすれば分断されてしまいがちな医療の世界の中で、非常に貴重な立場だと感じました。私は、胎児期から小児期に至るまで連続した診断・治療を実現している米国の小児医療センターを3か所(ボストン、シンシナティ、フィラデルフィア)回り、いろいろな職種、場合によっては外の病院のスタッフも加わってのチーム医療に感銘を受けましたが、日本ではまだまだこのような診療科間、職種間や医療施設相互の垣根を超えた、あるいは取り払った連携は実現しづらい現状にあります。大阪医大の取り組みは、日本における新たな妊婦・胎児・小児のサポート体制の構築の良いモデルケースになると感じました。

 

 産む/産まないの選択に関連して、また出生前検査の取り扱われ方にも関わる問題として、我が国における人工妊娠中絶の捉えられ方が、大きな影を落としているといつも感じています。結局はこの問題が最も解決すべき問題だと思うのですが、この点についての本質的な議論が進みません。このことを考えた時、同じハートネットTVで2019年5月8日に放送された 「中絶という、痛み 見過ごされてきた心と体のケア」を思い出しました。この回に関連した対談記事がすごく良い内容でしたので、リンクを貼っておきます。

www.nhk.or.jp

今回の放送内容も、この中絶の問題についての記事も、丁寧な取材に基づいたもので、視聴する人たちにとっても新たな気づきが生まれるものであったと感じています。