FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

冷たくあしらわれているのは1度だけではない。

前記事で公開した文書ですが、業界内部では物議を醸しているようです。

この文書の配布先について、少し細かくわかってきました。

この文書は、3ページからなるものです。学会の将来を考えての提言という形をとった1ページ目、別紙資料としての2ページ目、そして、「追伸」として理事候補者名が並ぶ3ページ目です。

ご自身の身内と認識されている人たち、教え子、小児科医の評議員には、3ページ全てが送付されました。

産婦人科の評議員でも、与し易いと考えられている人たちには、2ページ目までが送付されました。
産婦人科や他の分野の人で、自分があまり関わりたいと思わない人、うるさそうな人には、何も送られていません。(私や当院の田村もここに含まれています)
前記事をお読みいただくとわかりますが、この1ページ目には、理事会の世代交代の必要性や、一領域に偏らず多領域多職種横断的な組織をまとめられる人物が選ばれるべきと理想的なことが書かれています。
それでいて、3ページ目の投票リストに具体的に挙げられている理事・監事候補13名の内訳はというと、13人中7人が小児科関連、13人中3人が信州大学関連で占められている一方で、産婦人科医は完全に除外(評議員中、産婦人科医は3割弱を占めています)した人選となっています。
なぜこのようなあからさまな産婦人科医排除の姿勢を打ち出すのでしょうか。人類遺伝学会が対応すべき課題として、出生前診断の問題を含む産科・周産期医療、生殖医療、がんゲノム医療といった産婦人科医が密接に関わるべきものが多数あるにも関わらず、人類遺伝学会の理事会における産婦人科医の存在感をなくそうということは、この学会内部では可能な限り産婦人科医の発言力を削って、日本産科婦人科学会などに対する対峙姿勢を鮮明にしようという考えに違いありません。

 

 さて、私にとって、この問題と関連して思い出さざるを得なかったことがあります。私たちは、一クリニックという小さい立場でありながら、出生前検査・診断の分野に特化した問題に常に向き合い、専門スタッフを揃えた施設として、どこよりも多くの実践を積み、学会発表など学術的活動も継続的に続けています。しかし、我が国におけるこの分野の方向性を決定する立場の面々からは常々軽く扱われ、ほとんど無視された状態で放置されてきていることです。

 先日も、「出生前検査の適正な運用を考える会」として日本産科婦人科学会宛に送付した公開質問状を全く無視されてしまったわけですが、この他にも冷たい対応を受けた事例があるのです。

  私たちは、平成30年(2018年)7月20日付で「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会宛に、母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する登録申請を行いました。しかし、この施設認定・登録部会は、書類送付先は日本産科婦人科学会(以下、日産婦)となっていて日産婦が窓口となっているものの、日本医学会の「遺伝子・健康・社会」検討委員会の下部組織なのです。そしてこの日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会ですが、任期が「平成29年6月日本医学会臨時評議委員会開催日まで」となっており、その後新たに立ち上げられた形跡がありません。日本医学会のホームページを見ると、日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会は、日本医学会臨床部会運営委員会の下部組織となっており、しかしこの臨床部会運営委員会は、平成27年6月以降なくなりましたとの記載もあり、よくわかりません。

結局、この施設認定・登録部会で審議され、認可された施設は、平成30年7月13日付で登録された帝京大学医学部附属病院が最後となっています。帝京大学病院は、この申請を行うにあたり、新たに始める業務ということもあって、産婦人科の木戸浩一郎准教授と認定遺伝カウンセラーの青木氏が当院に見学に来られたり、私たちも密に連絡を取り合っている施設の一つです。彼らは、申請する際に他の施設の人たちから、「もう臨床研究は終了するのだからわざわざ面倒な臨床研究で今申請しなくても、もう少し待ったほうが楽なんじゃないか?」と言われたようなのですが、木戸医師は、今にして思えば書類も揃っているし早めに申請しようと考えて早く出しておいてよかった、とおっしゃっていました。

私たちと同時期、あるいはそれより後に申請書を提出した施設は、宙ぶらりんのまま一年以上据え置かれています。このような施設が約70施設あるという噂もあります。何の連絡もないので、そもそも書類が届いているのかどうかもわかりません。誰が確認してどこに置かれているのか、きちんと保管されているのか、全く不誠実な対応と言えるでしょう。

 私たちは、全国遺伝子医療部門連絡会議宛に、維持機関会員登録申込書を、平成29年3月29日付で送付しましたこの会議は、毎年日本人類遺伝学会の大会に引き続いて行われており、私たちはほぼ毎回、(維持機関の構成員が正会員ということになっているので)個人会員として参加していました。しかし、遺伝診療を専門に扱う施設として常に参加し、専門家としてそれなりに発言してきた立場から、他の会員の方からも施設としてもきちんと認められ正会員なるべきだとのアドバイスもあって、維持機関として登録してもらおうと考えたのです。

書類送付までには以下のような経緯がありました。

まず、平成28年(2106年)末に、維持機関に加入したい旨、事務局宛にメールで連絡しました。しかし、何の返答もないまま経過したため、平成29年(2017年)2月17日に再度連絡しました。

すると、折り返し事務局から問い合わせがきました。「そちらの施設は、個人開業ですか?それとも医療法人が運営する施設でしょうか?」という質問でした。私たちの施設は医療法人の運営するクリニックですので、「医療法人です。」と答えましたところ、「それであれば申し込み書類を揃えて、送付してください。」とのことでした。メール添付で良いとのことでしたので、平成29年(2017年)3月29日に指示されたように書類を揃えて送付しました。同日、事務局から、受け取り確認のお返事をいただき、その中で、理事会で審議後に改めて案内いただけるとの記載があり、少々時間がかかるとのお話でした。

ところが、平成29年(2017年)4月3日に福嶋義光理事長名での連絡があり、当院が病院ではなくクリニックであるため、維持機関会員の要件を満たしていないので、個人会員として連絡会議を支援してもらいたいとの連絡がありました。

いや、じゃあその前の質問(医療法人であるか否か)は一体なんだったんですか?

結局、理事会に諮ってさえいないんじゃないですか。理事長・事務局(信州大学医学部附属病院遺伝子医療研究センター内)の判断で、却下してるんじゃないですか。ここでも、個人に権力が集中していることを感じます。

この団体の趣旨を読むと、「遺伝子医療部門の存在する高度医療機関(大学病院、臨床遺伝専門医研修施設、)の代表者により構成され、わが国の遺伝子医療(遺伝学的検査および遺伝カウンセリング、等)の充実・発展のための活動を行っています。」となっています。規約第2条では、本会は全国の大学病院及びその他の医療機関等の遺伝子医療部門を維持機関とし、次の構成員からなる。(以下略)と記載されています。規約第3条には、本会は大学病院及びその他の医療機関等の遺伝子医療部門の連携を保ち、学術的・社会的事柄に関する情報交換、並びに構成員相互の意見交換を図り、もって遺伝子医療(遺伝カウンセリング,遺伝学的検査等)の発展に寄与することを目的とする。とあります。

これを読む限り、クリニックでは、維持機関会員の要件を満たしていないとは思えません。実際、クリニックとはいえ、当院には臨床遺伝指導医1名が常勤として在籍し、専門医複数名が診療にあたっています。また、認定遺伝カウンセラーが2名常勤として在籍していますし、常勤助産師がゲノムメディカルリサーチコーディネーターの資格を持っています。全国から維持機関会員として参加している大学病院でも、このような陣容を揃えているところは多くはありません。だから、実際にワークショップに参加しても、いろいろな大学病院などから参加しているスタッフには、まだまだ知識や経験が浅い参加者も多いし、あまり発言しないまま終わる人も多い中、私たちはいつも意見を求められ、きちんと発言してきています。

そもそも連絡会議自体が、遺伝子医療“部門”連絡会議なのです。医療機関内で遺伝子医療を扱う部門どうしが連絡を取り合う趣旨であるならば、病診連携を推進する観点からも、診療所が“部門”の役割を担うことは、整合性があるはずです。

その施設がどのような役割を果たしているか、どのような体制でどのような診療を行なっているのかについて検討もせず、ただ単に「クリニックだから」「病院ではないから」といったような理由で門前払いにするとは、酷い対応です。ワンマン体制の組織ならではなのでしょうか。

当時、私はまだ臨床遺伝専門医ではあったものの、指導医ではありませんでした。しかし現在は指導医となっており、複数の研修医が研修に来ています。施設はまだ研修施設にはなっていませんが、研修施設に申請して認定されれば、晴れて研修施設となることもできます。この段階でもう一度維持機関として加入申請すれば、認められるのでしょうか。頑張ってみたいと思います。

 

しっかりと実績を積んで、クリニックを公にも認められるような施設にすることを第一と考えて、これまで受けた冷遇に耐えてきました。しっかりやればきちんと評価されると考えてやってきました。だから、どこからみても押しも押されもしないぐらいのものを造って、堂々と見返してやりたいと考えてこれらの経緯についてはずっと自分の心の中に収めていました。これらはまだ、表に出すべき時期ではなかったかとも思います。もうしばらくじっくりやるべきであることは認識しています。しかし、私ももう若くはありません。事態が良い方向に動かないまま時間ばかりが過ぎていくのなら、自分がきちんとやれるうちに少しでも良い方向性への道筋を造っておかなければならないとも考え始めています。