FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

新型コロナウイルス感染 海外からの報告10: 授乳での感染はほぼない

周産期における母児感染に関する観察コホート研究の報告です。

権威ある医学誌として知名度の高い、The Lancet Child & Adolescent Health に掲載されました。現時点で速報としてオンライン公開されています。

Neonatal managemnet and outcomes during the COVID-19 pandemic: an observation cohort study

Published:July 23, 2020    DOI:https://doi.org/10.1016/S2352-4642(20)30235-2

以下、要約です。

 2020年3月22日から5月17日の間に、アメリカ・ニューヨークの3つの病院で、出産時にSARS-CoV-2陽性が確認されている母親から生まれたすべての新生児が対象となりました。

 母親には、分娩室内でのいわゆるカンガルーケアと授乳が許可されていますが、この肌と肌との接触、授乳や、日常的ケアを行う前には、必ず適切な手指消毒を行い、サージカルマスクを着用することが義務付けられました。医学的に必要とされる場合を除いて、新生児は母親と同じ室内で閉鎖した保育器内に収容し、授乳時には適切な手指消毒、乳房のクレンジング、サージカルマスク着用としました。新生児には、生後24時間、5〜7日、および14日目に、鼻咽頭ぬぐい液でSARS-CoV-2のリアルタイムPCR検査をおこない、生後1か月には遠隔診療によって臨床的評価を行いました。 人口統計学データ、新生児および母体の臨床症状の記録のみならず、病院や自宅での感染対策の実践も記録されました。

 出産1481件中、116人(8%)の母親がSARS-CoV-2陽性で、生まれた新生児は120人でした。 生後24時間で行なったリアルタイムPCR検査では、SARS-CoV-2は全員陰性でした。 生後5〜7日まで追跡調査を完了した新生児は82人(68%)で、そのうち68名(83%)が母親と同室でした。 すべての母親が母乳育児を許可されており、生後5〜7日の時点では、64人(78%)が授乳を継続していました。 この時点で82人の新生児のうち79人(96%)がPCR再検査を受け、これはすべて陰性でした。 72人(88%)の新生児は生後14日にも検査され、やはり全員陰性でした。 COVID-19の症状があった新生児はいませんでした。

著者らはこの結果の解釈として、以下のように記しています。

・正しい衛生予防策が講じられている場合、COVID-19の周産期感染が発生する可能性は低い。

・新生児・乳幼児保護戦略についての効果的な両親教育を行うことで、母児同室の許可と直接母乳育児が、安全な方針・手技となる。

戦略的に正しい感染対策を行って対処することによって、たとえ妊娠母体が新型コロナウイルスに感染していたとしても、母児間感染は起こりにくいといえるので、出産する妊婦さんたちはきちんとした感染対策の考え方、手順を学ぶことによって、自分の部屋で自分の手で新生児をケアし、直接授乳することができるという結論です。このことは、新型コロナウイルスが無症状感染者からも人にうつる可能性が高いという事実を前に、生まれてきた赤ちゃんをどう扱えば良いのか心配しておられる妊婦さんたちにとっては、ありがたい情報となるのではないでしょうか。