FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

新型コロナウイルス感染 海外からの報告11: 妊婦では重症化しやすい

新型コロナウイルス感染、第2波が到来したのではないかという見解も出る状況になってきているようで、まだまだ安心して暮らせる日々にならない中、妊婦さんに関する情報も更新されてきました。

 4月の時点では、妊娠は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の悪化因子にはならないのだろうと考えられていました。私も以下の記事を書いています。

妊娠と新型コロナウイルス感染 海外からの報告 2: NYの43例・妊婦も重症化する率は同じ - FMC東京 院長室

 しかし、米国から新しいデータが出てきました。CDCの週刊レポートで6月26日に出されたものです。感染症専門医の忽那賢志さんがわかりやすくまとめてくださった記事があります。

news.yahoo.co.jp元の報告はこちら⬇️ 大規模な調査報告です。

Characteristics of Women of Reproductive Age with Laboratory-Confirmed SARS-CoV-2 Infection by Pregnancy Status — United States, January 22–June 7, 2020 | MMWR

大事な部分は、

・妊娠している女性は、妊娠していない女性と比べて、集中治療を必要とする率が1.5倍

・同じく、人工呼吸器を必要とする率が1.7倍

・死亡率には差がなかった

というところでしょう。

 妊娠中は感染を避けるよう、十分な注意が必要(そんなこと言われなくてもみなさんそうされているでしょうが)であることが、より明確になったと言えます。

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分娩方法や授乳については要検討事項

 分娩方法については、帝王切開が重症化リスクにつながる可能性が示唆されているとの情報もあるようですが、どのように比較したものなのかなど、まだ詳しく論文の内容を見ていませんので、現時点ではなんとも言えません。米国の産婦人科医会では今の所、この感染症によって、基本的には分娩方針を変える必要はないとの見解のようです。

 諸外国と比べて、わが国の分娩施設のあり方はやや独自のところがあります(施設における分娩数がそれほど多くない分娩施設が数多く存在していて、分娩に特化した専門病院的なものはあまり多くない)。施設ごとに対応の違いはあるでしょうが、現状では設備や人員の問題もあって、妊婦さんが新型コロナウイルス感染症と診断された場合、あるいは、感染の事実があると判断された場合には、帝王切開分娩が選択される可能性が高いことが推察されます。

 授乳については、前記事で紹介した論文報告などから、現時点では母乳育児が推奨されますが、この論文のように直接授乳でも良いとするのか(米国CDCの推奨は今のところ、搾乳して母親以外の人が与える方が望ましいとしているようです)、慎重な対応が必要でしょう。可能であれば直接授乳させてあげたいと思いますが、そのためにはきちんとした感染対策の手順を徹底することが大事でしょう。

 

新型コロナウイルス感染流行下において、早産が減少しているという話も耳にします。これは何を意味しているのか、どのくらい正確なデータに基づいているのか、はっきりしているようなら、また取り上げたいと思います。