FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

胎児はまだまだ発達途上(2016年10月31日)

当院では、妊娠11週から13週に胎児の超音波検査をおこなっていますが、この時期にはすでに胎児の体の大まかな形は出来上がっていて、人の形になっています。診察室のモニタで画像をご覧になった妊婦さんやご家族は、人の形で動き回っているのを見ると、すっかり人として完成しているようにお感じになるようです。しかし、実際には胎児というものはまだまだ未熟で、人として完成しているわけではありませんので、成熟児として生まれてきた赤ちゃんや、ましてや私たち大人とは程遠いものがあります。
胎児がじっとしていると、「寝ている」、動いていると「起きている」と思いがちですが、この時期の胎児の脳はまだ未熟なので、寝るも起きるもありません。医学的に、「起きている」と言える状況になるのは、もっともっと先の話です。まだまだ何もわからない状態です。「男の子ですか?女の子ですか?」とよく聞かれますが、外陰部の形はまだ完成していません。3D/4Dで股が見えても、そしてそこに何か突起物が見えても、それでは判断できません。(ある程度の予測・判断はできる場合がありますが)
超音波検査で人の形に見えて、子どもができたと実感を持っていただくことは、たいへん良いことだと感じてはいます。動き回る姿を見て、かわいいと感じること、元気だと頼もしく思うことは、素敵なことだと思います。しかし、そのときのイメージが、長い妊娠期間を通して発育・発達し、しっかりと生きていける機能が備わって生まれてきた赤ちゃんと同じになってしまうことについては、無粋かもしれませんが、それは間違っているというべきだと考えています。子宮・胎盤と切り離されて、母親の体の外に出て、独立していける状態ではないのです。たとえ専門家でなくても、夢の部分、ファンタジーの部分と、現実的な考え、科学的な思考は、両方をうまく使って冷静に考えていくべきだと思っています。
たとえば、この時期の胎児が、子宮の壁に頭をぶつけても、痛くも痒くもありません。それどころか、ぶつかったという感覚すらないでしょう。少し先ですが、羊水検査の針が体に刺さったとしても、痛くありません。人間の形をしているように見えても、私たちと同じような感覚はまだ持ってはいないのです。