FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

わが国におけるNIPTの今現在についてまとめておく (1)

第53回日本周産期・新生児医学会3日目です。

一昨日の議論の後の帰路、考えを巡らせていたのですが、もう一度NIPTの今現在についてまとめておく必要があるなと思いました。

端的に言うと、なぜ常勤・非常勤で複数の臨床遺伝専門医が診療に携わり、また認定遺伝カウンセラー2名を擁し、日常的に遺伝カウンセリングをおこないつつ、多くの先天的疾患や遺伝疾患を持つ人に対応し続けている、全国的にも類を見ない私たちのクリニックに於いて、NIPT(母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査)を扱うことができないのか。についてのまとめです。

 過去記事『NIPTを行うための指針とは?』

 においてまとめたことの繰り返しになりますが、2013年3月9日に公表された日本産科婦人科学会の指針及び、日本医師会・日本医学会・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本人類遺伝学会の同指針を遵守すべきであるとの共同声明が、慎重かつ時間をかけた議論に基づき、国民の承認を得たものとして正当性のあるものという認識が、実際に4年にわたって進められてきた現状から考えて、本当に妥当であるのかということについて、もう一度考え直す必要があるのではないかと思うのです。

同指針の『V. 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う場合に求められる要件』について、見直していきたいと思います。まず、V-1 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う施設が備えるべき要件です。

その1

産婦人科専門医と小児科専門医がともに常時勤務していることを要し

・医師以外の認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職が在籍していることが望ましい

・上記の産婦人科医師は臨床遺伝専門医であることが望ましく、小児科医師は臨床遺伝専門医または周産期(新生児)専門医であることが望ましい

産婦人科医師、小児科医師の少なくとも一方は、臨床遺伝専門医の資格を有することを要する。

→ 専門的知識と経験を持った医師が対応できる体制が必要であることは理解します。しかしなぜ産婦人科専門医と小児科専門医の双方を常勤医として揃えていなければいけないのか、理由がわかりません。そしてこの要件は、「望ましい」とされている臨床遺伝専門医の資格、認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職の在籍よりもより厳しく、必須要件となっています。この重み付けの違い、産婦人科と小児科が常勤医として揃うことの必要性、いくら考えてもわかりません。

また、遺伝看護専門職という職種もよくわかりません。専門看護師の中に、遺伝看護専門という分野が特定されていますが、遺伝看護専門看護師はいまのところ本年12月に誕生見込みとなっています。では2013年時点での遺伝看護専門職という職種はなんだったのでしょうか。10年前に制度がスタートした認定遺伝カウンセラーと同列に並べられるような専門的知識と技能を持った人たちなのでしょうか。専門医や認定遺伝カウンセラーについては、但し書きがついているのですが、この看護職については解説もなく、どういう団体が認定している資格なのかもわかりません。

医師の資格についてはたいへん厳しく規定されていますが、医師以外の職種についてはやや曖昧になっているのは、やはり医師がメインで、それ以外の職種はあくまでも補完的要員と見られているのでしょうか。

そして、その4

・検査施行後の妊娠経過の観察を自施設において続けることが可能であること。

→ 検査を行った後は、検査を受けた妊婦さんの妊婦健診をその施設で続けなければならないということでしょうか。妊婦健診をおこなうことと、検査結果に基づいてフォローすることとは同一ではありません。妊婦健診を行っていない施設であっても、健診を行っている施設と連携してフォロー可能なのではないでしょうか。

そもそも、実際に検査を受けた方の多くは、普段は検査を受けた施設とは別の施設で妊婦健診を受けているのが現実なのではないかと思います。現状に全く即していないのではないでしょうか。

一昨日のパネルディスカッションにおいて報告されていた、NIPTコンソーシアムの統計によると、2013年4月から2016年3月までの3年間で、30,615件の検査が行われています。このうち、最終的に“陰性”と判定された人は30,021例です。この人たちのうちで、その後の妊娠経過・結果が判明しているのは、13,481例でした。残りの16,540人はどこへ行ってしまったのでしょうか。