FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

ISUOG(世界産科婦人科超音波学会)に参加しています。

ウィーンで開催されているISUOG(世界産科婦人科超音波学会)に参加しています。当院の関係者では、心エコー外来を担当していただいているDr. 川瀧元良が一緒です。

日頃いろいろな仕事に携わっている中で超音波検査・診断にも関わるお医者さんたちと違って、日常診療のほとんどが超音波検査である私にとっては、この学会は最重要かつ最有用な学会で、プログラムの一つ一つが刺激的かつ勉強になりますので、朝から夕までみっちり参加して、観光の余地がありません。宿泊先も学会会場の近くにとってしまったので、街並みを楽しむこともできません。せっかくなので帰るまでには少しは観光もしていきたいとは思っているのですが。

さて、こういった国際学会に参加して海外からの報告などを聞いていると、日常診療の中で接している国内の一般的な診療とのギャップが、年々大きくなっているのではないかという気がします。特に胎児について観察し、診断するという点において、日本の現状はかなり遅れをとっている感があり、海外の状況との差は、私がまだ若かった頃と比べても、広がる一方という印象があります。過去には何人かの偉大な先達がこの学会でも活躍され、当院の最高顧問になっていただいている竹内久彌先生もそのお一人として、本学会のGold Medalを授与されておられるのですが、このところ日本人があまり目立たなくなってきているようです。診断装置のメーカーとしての日本企業は頑張っているのですが。自戒の念も込めて、もっと積極的に発信していけるようにならないとという気持ちになりました(ちなみに私は今回2演題発表しているのですが、抄録の内容のインパクトがいまひとつと判断されたのか、2題ともあまり目立たないe-posterに回されてしまいました)。(自分の興味に従って行動しているためにあまり気づかなかったのですが、日本の若者も何人か頑張って発表を行っていることに今朝になって気がつきました)

もちろん、日本にも優秀な若手医師は大勢いるし、新しい知見や技術を手にすることに積極的な姿勢を持つ人も多いのです。しかしながら、そういった人たちが活躍できる場があるのか、この国の産科医療の中で中心的な存在になれる可能性があるのかというと、現状ではそうはいかないだろうと思えます。

何が問題なのでしょうか。

おそらく日本では、妊婦健診のシステム自体はよく機能しており、世界に誇るべき周産期死亡率の低さなど、素晴らしい面があるのです。ところが、胎児を観察し、診断・治療を行うという面においては、その方法のスタンダードが確立していないという問題があります。これは、日本における妊婦診療の特徴の一つである、小規模で勤務医師数も少なく、一施設あたりの分娩数も少ない施設が全国に数多く散らばっており、それぞれが独自の診療を行っていることが原因になっていると思われます。こういった施設で分娩を扱う医師たちの多くは、日常診療で手一杯で、新しい知見や技術を学ぶ機会に恵まれません。過去に受けた教育に基づく知識や方法にとどまって、変化についていけなくなってしまっていることも多いのです。妊娠のどの時期に、どのように胎児を観察するかのスタンダードづくりも、思うように進んでいません。日本中のどの施設に通っている妊婦でも均一な検査が受けられることを目指すことを考えた時に、どの医師が行ってもできることを前提においてしまう考え方が、基準を低くしてしまうという問題につながっていると思われます。どの医師が行っても可能な基準を作るのではなく、医療のレベルをある程度の高さに保つために必要な基準を設定し、その基準に達することが困難な医師が多いのであれば、医療のシステムそのものを変化させるように考えるべきではないでしょうか。具体的には、普段の妊婦健診と詳細な超音波検査とを分けて、検査についてはそれを行うことのできる医師の診療を受けられる仕組みづくりが必要だと考えます。これを全員が受けるべきなのか、希望者のみとするのが良いのかについてなどやり方はいろいろとあると思います。しかし少なくとも、希望しているのにもかかわらず受けられる機会がないということは無くすべきでしょう。こういった変革が、医療のレベルアップにつながり、ひいては受診者(妊婦さん)にとってより良い医療にしていくことにつながると私は考えます。

国際的には、産科・婦人科領域の超音波検査・診断だけに特化した学会が、これだけの大きな規模で開催されていて、日本からも多くの若いやる気のある医師達が参加しているのに、日本に帰るとその活躍の機会が限られているというのは、残念でなりません。医師の役割分担を明確にすることは、仕事そのものを魅力的にし、疲弊を防ぐことにもつながると思います。良い形を作ることは簡単ではないかもしれませんが、このままで良いととどまっているわけにはいかないと感じました。

 

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ウィーンのシティホールで開催されたコングレス・パーティーの模様