FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

NIPTについて、日本医学会として今後どうするつもりなのか、全く見えてこない年越し

私たちのクリニックは、本日が2018年の仕事納め。診療を終えて大掃除、その後忘年会で、明日からは休みに入ります。

まずはゆっくり休んで、また年明けから心機一転頑張ろう!と思っていた矢先、、、

日本産科婦人科学会と日本周産期・新生児医学会からお知らせが来ました。

内容は同じで、それぞれの学会のホームページに、日本医学会から届いた「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(NIPT)」指針の遵守についての依頼 を掲載したという連絡でした。

この年末の押し詰まった時に、なんですかこれは。あまりに腹が立ったので、大事な原稿書きを一時中断して、ブログに戻ってきてしまいました。

特に会員限定の情報ということでもなく公開されているようですので、リンクを貼ります。

https://www.jspnm.com/topics/data/topics181228.pdf

要するに、NIPT実施については、日本産科婦人科学会の指針、関連5団体の共同声明、および厚生労働省の通知に従って、日本医学会臨床部会運営委員会「遺伝子・健康・社会」検討委員会の下に設置する「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会で認定・登録された施設で行うとされているにも関わらず、これを無視する形で産婦人科を専門としていない医師が勝手に検査を扱っていることについて問題視しているのです。そして、結論的に、

NIPTには倫理的に考慮されるべき点があり、高度な専門性が要求され、社会的影響も大きいことから、認定・登録された施設においてのみ実施されるべきであり、「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会での認定を受けずに当該検査を実施している医療機関や医療従事者、また受諾して検査を請け負っている検査機関や仲介業者等これにかかわる全ての関係者は、いずれも直ちに検査の受諾及び実施をはじめとする全ての関係業務を中止すべきである。

としています。

そりゃあねえ、私だって知識のない連中が金稼ぎのためにこの検査に目をつけて、まともな説明もできないまま、今や認定施設で行なっている数よりも多くの検査を実施している今の状況はけしからんと思っていますよ。いいかげんな体制で検査を行うことはやめさせるべきだという意見には、全面的に賛成します。しかし、そういう状況にしてしまったのは誰の責任なんだ!という点については、どうお考えなのでしょうか。妊婦さんたちの不安に応えられない状況をつくって押さえつけるから、いいかげんな医療機関に殺到してしまうんじゃないですか。

それにこの文章、ツッコミどころ満載です。ちょっとツッコマせてください。

まず本文の一行目から、

日本産科婦人科学会では、1. 妊婦が十分な認識を持たずに検査が行われる可能性があること、2. 検査結果の意義について妊婦が誤解する可能性のあること、3. 胎児の疾患の発見を目的としたますスクリーニング検査として行われる可能性のあること、等から、十分な遺伝カウンセリングを実施することができると認定・登録された施設でのみ実施できることを骨子とした、、、、

この文章、かなり以前から使われていて、日本産科婦人科学会(日産婦)は、これ大好きですね。でも、「妊婦が十分な認識を持たず」とか、「妊婦が誤解する」とか、基本的に妊婦は理解力の低い人とみなされているようです。バカにしとんのか。

実はこの文章、1999年(平成11年)に厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会が出した、『母体血清マーカー検査に関する見解』にもほぼ同じ表現が用いられているんです。以下にリンクを貼ります

99/07/21 厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会「母体血清マーカー検査に関する見解」についての通知発出について

それから約20年、状況は何にも進歩してないんでしょうか。妊婦さんたちの認識は深まっていないのでしょうか。だとしたらその責任は誰にあるのでしょうか。

妊婦の診療を行っている専門家たる日本産科婦人科学会の会員の医師たちが、きちんと情報提供を行えて検査結果についての説明をできるなら、妊婦さんもきちんと認識して誤解なく判断することができるのではないでしょうか。学会・医師たちがきちんと取り組んでこなかったことの責任を妊婦に押し付けていることになりませんか?それとも、どんなに努力しても、どんなに時間を費やしても、妊婦さんたちというのは十分に認識できず、誤解しがちな人たちだというのでしょうか。そうだとすると、遺伝カウンセリングと称した30分から1時間ほどの説明で、しっかりと理解を得ることが果たして可能なのでしょうか。

『十分な遺伝カウンセリングを実施することができると認定・登録された施設のみ実施できる』という文言も気になります。本当ですか?認定・登録の要件として、遺伝カウンセリング体制のみならず、妊娠経過を追うことのできる施設(実質分娩を行なっている施設という認識がされています)とか、産婦人科専門医と小児科専門医が揃っているとか、遺伝カウンセリングと直接的には関係のない要件もあって、規模の大きい病院でないとなかなか認定されにくい仕組みになっているのはどうしてなのでしょうか?

私たちの施設はどんな大きい病院よりも妊婦に対する遺伝カウンセリングを行っている数が多いと自負しています。院長は臨床遺伝専門医指導医で、そのほかに常勤医1名、非常勤医師2名が臨床遺伝専門医ですし、臨床遺伝専門医になるべく研修中の医師も複数おります。学会が認定している認定遺伝カウンセラーが2名在籍しており、そのうちの1名は米国の遺伝カウンセラー資格も保持しています。出生前検査を扱うにあたり『十分な遺伝カウンセリングを実施することができる』施設であることは間違いないと思いますが、上記のようないろいろな要件が壁になり、申請できる状況にありませんでした。

小児科専門医もスタッフに加わっていただけることになり、複数の分娩取扱施設との連携体制も整った形になったことより、ようやく申請書を提出できる状況になったと判断し、今年の夏に日本産科婦人科学会宛に申請書を提出しましたが、その後何の音沙汰もありません。受理する/しないのレベルではありません。何もレスポンスがないのです。書類が届いているのかさえわかりません。ほぼ同時期に提出した鹿児島大学でも同じような状況だと聞いています。事務方が確認を取ったところ、日産婦の事務局からは、施設認定・登録部会が動いていないので、申請書類は保留状態で留め置かれていると知らされたという話も聞きました。

認定を受けていない施設の方が多くの検査を扱うような現状になってしまっていて、それではまずいというのならば、きちんとした手順を踏んで認定を受けようとしている施設の申請をなぜ半年も放置しておくのか。放置しておきながら、一方で認定外施設で検査を行うことはけしからんとだけ主張しても、それではそういう施設に流れざるを得ない妊婦さんたちの受け皿は準備できるのか。妊婦さんたちが抱えている心配事にきちんと対応できるようにしようという気持ちがそもそもあるのか。

少しずつツッコもうと思っていたのですが、最初の一行目からのところでヒートアップしてしまいました。はじめの方は忘年会前(28日)に書いていたのですが、途中で忘年会に突入してしまい、まだまだ書ききれません。ブログにアップする段階で日付が変わってしまいました。この続きは年内になんとかしたいと思っています。