FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

妊娠と新型コロナウイルス感染 海外からの報告 1: 108例のまとめ

妊娠と新型コロナウイルス感染との関連について、複数の論文が発表されてきました。

まだ速報段階のものが多いですが、紹介していきたいと思います。

この記事から3編連続でお伝えします。

スウェーデンはLund大学、Skåne大学病院の産婦人科医と新生児科医が、これまで(2020年2月12日〜4月4日の間)に英語または中国語で、査読のついた論文として発表された信頼の置ける情報をまとめたもの(レビュー)です。定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)もしくは二重標識蛍光プローブを用いたPCR法で新型コロナウイルス感染が確認されているものに限り、論文として発表されていないものや、発表時期が明らかでないもの、二重投稿の疑いのあるもの、疑い症例を含むもの、転帰の明確でないものは除外されています。

18の論文に記載された、2019年12月8日から2020年4月1日の期間の108妊娠が対象となっています。

ほとんどのケースは妊娠末期で、発熱(68%)、咳(34%)を主訴に受診し、リンパ球減少(59%)、CRP上昇(70%)といった検査所見を示し、91%は帝王切開分娩となりました。報告例の大半は、大きな合併症もなく退院できたものの、3例がICUに入院しました。母体死亡はありませんでした。新生児死亡1例と子宮内胎児死亡1例がありました。

このレビューでは、コロナウイルス感染の検査が行われた75例の新生児のうち、1例に陽性反応が出ていました。このケースは臨床的には順調な経過でしたが、一時的にリンパ球減少と肝機能検査における異常値が確認されていました。Zhuらが報告している新生児10例(全て検査陰性)中では、2例が播種性血管内凝固を発症しその後改善、1例が多臓器不全で亡くなっています。Fanらは、軽度リンパ球減少とレントゲン検査上での肺炎所見を2例に認めていますが、いずれも経過良好で問題なく改善しました。これらの知見から、著者らは、母体が新型コロナウイルスに感染した際には、胎児や新生児が反応性になんらかの症状や所見を示す可能性が除外できず、母児間の垂直感染(子宮内感染)も完全には否定できないと述べています。最近発表された報告にも、帝王切開で分娩された3例の新生児において、生後2日の時点で新型コロナウイルス感染陽性が確認されているようでした。しかしながら、Schwartzらが調べた38例の感染妊婦からは、子宮内感染の証拠は何もなかったとも述べています。それでもなお、リンパ球減少や血小板減少の報告がいくつもあることや、一見元気な赤ちゃんでもレントゲンを撮ると肺炎症状があったりすることから、感染妊婦から出生した新生児は、かなり慎重に扱う必要がありそうです。

論文へのリンク

https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/aogs.13867