FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

ちょっと愚痴らせてください(現在のNIPT検査体制のあり方の問題点について、ブログ内記事を追うのが大変だと思われる方に、まずはここを読んでもらいたい)

このブログでは、これまで、出生前検査・診断及びその周辺事情を中心に、基本的に真面目に真摯に語る姿勢を貫いてきました。(途中、NIPTの施設認定・登録部会とのやりとりなど、バトルの報告をする場になることも想定していたのですが、完全に肩透かしを喰らった形になっていて、バトルが成立していません)

まあ、そうは言っても時々愚痴をこぼしているではないかと言われればそうかもしれないのですが、基本的には冷静さを保ってやってきたつもりです。

しかし、多くの医療機関もそうであるように、このところのクリニックの状況は、実はあまり良いものとは言えず、ついつい愚痴らずにはいられない気分なのです。

自分のブログなのだし、たまには吐き出しても良いかなということで、正直な心情を吐露したいと思います。

“コロナ禍”における当院の現状

 いわゆる“コロナ禍”、そして緊急事態宣言の結果、外来者に来ていただいて収入を得る形の業態を運営している人たちは、軒並み苦労されていることと思います。当院もご多分に漏れず、受診される人数はぐっと減少してしまいました。そもそも近隣にお住まいの方が定期的に受診されるような一般的な診療所ではなく、受診者さんの多くは、電車や車で来院されていましたし、県境を跨いで来院される方も多かったので、妊婦さんたちが感染を恐れて極力そういう移動を控えたいとお考えになる状況では、受診者が激減することは避けられませんでした。当院は、一般的な診療所とは違って、完全予約制で、一度に多くの方が来院されることのないように配慮可能ですし、診療の中心は胎児の検査で、感染の疑いがある方が来院されることはまず考えられません。超音波検査はある一定時間締め切った部屋の中で行うものの、待合、遺伝カウンセリング室、超音波検査室のいずれも、ご家族で来られることを想定して、十分な広さを確保していますので、受診していただくことそのものには感染の危険を伴うことはないと断言できます。しかし、交通手段を用いて都心に向かうということ自体が、心配の種になることは否めません。不妊治療も制限されるようになり、来院者数を増加させる手立てがありません。しかし、医療機関は休業要請の対象に含まれていませんので、休業したとしても補償は得られません。感染の蔓延状況が改善して、徐々に人々の恐怖心が薄れるのを待つしかありませんでした。

実はもともと収益体質ではない

 こうなる前から、実は私たちは、出生前の検査や相談を総合的に扱う立場から、本来であればこれを導入することによって確実に来院者数を増やし、収入を確保する手段があるにもかかわらず、これには手を出さず、踏みとどまっていました。それは何かというと、NIPT(いわゆる“新型出生前診断”と言われているやつ)です。

 なぜ、NIPTを扱っていないか。このあたりについては、まだまだあまりよく知られていないようなのですが、日本医学会や日本産科婦人科学会、日本人類遺伝学会、日本小児科学会などが関係する、指針に沿った実施施設認定の決まりがあって、これを遵守しているからです。私たちのクリニックは、施設認定を申請しましたが、却下されているのです。このあたりの経緯については、このブログにたくさん記述していますので、じっくり読んでいただけるとありがたいです。以下にいくつか並べておきます。

旧 日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会から返事が来ました。 - FMC東京 院長室

【全文公開】「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会宛に返答を送付しました。 - FMC東京 院長室

最良の選択が「非認定施設」でのNIPT検査だという皮肉 - FMC東京 院長室

 しかし、そうやって私たちのような専門施設が手をこまねいているうちに、学会の指針には見向きもせず、いわば商売目的でこの検査を扱う施設があらわれ、確実に数を増やしています。これらの施設の多くは、ホームページに美辞麗句を並べ、情報に振り回されて不安を増幅させている妊婦さんを対象にまるで素晴らしい不安解消法を提供しているかのように喧伝し、実際には全くまともな対応ができていないのです。要するに、検査をお受けになるほとんどの方が、「陰性」という結果を得るので、万が一「陽性」が出た場合には、どこかに丸投げしておけばなんとかなるというような対応ぶりです。

 本来、この種の検査によって得られる情報は、人の遺伝情報に関係するものですので、どのように開示し、解釈し、理解していただくか、検査結果を受けて、どのような行動につなげるのか、倫理的な部分も含め、扱いはデリケートでなければなりません。

 しかし一方で、全世界で普及しているこの検査について、特定の専門医の頑なな考えに基づいて(としか思えない)強い制限をかけることも、決して良い方策とは思えません。むしろそのようなやり方が、既得権争いのように思われたり、権威を笠に着て当事者不在のやり方になっていたりすることになり、学会の指針による縛りには何の法的効力もないところを突かれて、無頼クリニックの横行を許すきっかけになってしまったとも言えるでしょう。

 私たちは、妊婦さんたちには混乱を防ぐために、できることならきちんとした対応をしてくれる施設で検査を受けてほしい(一応の目安としては学会認定施設ということになると思います。が、認定施設だからきちんと対応してくれるかというと、いろいろと心許ない部分があることも知っています)と考えていますが、そういう施設はハードルが高い(そもそも予約が取りづらい、夫婦で遺伝カウンセリングを受けることを前提条件としているなど門戸が狭い)こともあって、妊婦さんたちの心配に応えられる体制が十分には整っていないのです。

結局、損をするのは妊婦さんたち

 認定施設側では、自分たちは指針に基づいてきちんとした体制でやろうとコントロールしているのに、認定を受けずに商売で検査を扱っているところなどとんでもない!と考えていますし、一般の産婦人科医にもそのように話しています(まあそう考えるのも当たり前かもしれませんが)ので、妊婦診療の現場では、認定外の施設で受けた検査結果については、「信用できない」と言われてまともに対応してもらえなかったり、「何でそんなところの検査を受けたのだ」と妊婦さん自身が非難(悪いのは妊婦じゃなくて、認定外の施設だし、もっというとこの状況を作ってしまった学会側の対応のはずなのに)されたり、ことごとく妊婦さんたちが損をするようになっているのです。

 産科のお医者さんたちや、遺伝関連の専門家の方達に驚かれることもあるのですが、私たちのポリシーとしては、こういった認定外で検査を行なっているところで検査をお受けになることも許容しています。私たちは、これらの施設がどのような検査会社に検査を依頼しているのかもある程度把握していますし、その依頼先ごとにどの程度信頼できるかなど調べています。また、検査結果が保留になったりこれらのクリニックではきちんと説明できなかったことについて、検査会社に問い合わせることなども行い、可能な限り検査をお受けになった方が困らないように対応を心がけています。

 当院に検査に関する相談が来た場合や、検査の選択目的で遺伝カウンセリングを受けに来られた方には、その方の状況に合わせて、どのような検査の選択肢があって、どれにどのぐらいのメリットとデメリットがあるかを説明し、その上での選択を尊重しています。それぞれの方にとって、それぞれに応じた最良の選択肢があります。そんな中で、年齢の高い妊婦さんが、トリソミーの有無の確認をお考えになる場合の選択肢としては、どう考えてもNIPTが最も良い選択肢となります。私たちは、今日本で受けることの可能な検査の中にはこれこれこういうものがあるというお話をしますので、その話を聞いた結果の選択がNIPTになることは避けられません。残念なことは、当院ではNIPTを受けることができませんので、NIPTを受けることを選択された方には、他院に行って検査を受けてきてもらわなければならないことです。

 他院に検査をお受けに行かれる場合に、どこで受けるべきという話をすることはありません。当院として特に提携しているところもないし、特にお勧めできる施設があるわけでもありません。ただ、どこではどういう項目の検査が可能で、それにはどういう意味・意義があるのかなどについては、説明が可能です。基本的に、学会認定を受けていない施設では、説明や対応が不十分ですが、当院で遺伝カウンセリングをお受けになり、また結果で何か問題があっても当院に相談に来ていただければ対応できますので、このような施設で検査をお受けになることも心配いらない(余程杜撰な検体処理などされない限り)と思っています。

最良の選択が他院に行くこと??

 でも、これっておかしくありませんか?妊婦さんにとって最も良い道を一緒に考えようと丁寧にお話しした結果、当院で検査を受けずに、他の施設に行ってしまわれるのです。当院でNIPTが扱えないので、このような事例が続出しています。悲しいことこの上ありません。

 そんな中でのこの“コロナ禍”です。丁寧にやればやるほど収益につながる受診者さんは他所に行かれ、何も手間がかからず、確たるポリシーもなく、ただ採血するだけの施設が潤い、そういう施設で手に負えないようなケースの尻拭いにまた時間をかけ、これでよくやっているなという感じですが、もう本当にギリギリの状態です。

 普通に商売やっている人にとっては、信じられないことなのではないかと思います。確実に収益になる方法があるし、その方法について実際にやっている施設のどこよりもよく知っているにもかかわらず、それには手を出さず、効率の悪いことを地道に続けているのですから。

 私たちは、学会の認定なしにNIPTを扱っている施設は、倫理的に問題があるところばかりだと思っていますが、当院でNIPTを扱うことが倫理的に問題があるとはこれっぽっちも思っていません。ただ単に、認定されてないくせに勝手なことをしていると言われるような不当な扱いを受けたくない、自分たちの正統性を明確にして王道を進みたい、という気持ちだけで、学会とも向き合い、議論してきたのです(肩透かしを喰らっていますが)。それに、まだまだこの検査とその検査の扱われ方、これまでの経緯や議論など、多くの方々に知られているとは思えない現状で、感情的になって掟破りに手を出したら、他の問題がある施設と同等に見られたり扱われたりしてしまうなら、そんなバカなことはないという気持ちもありました。

 緊急事態宣言が解除になり、しかしまだ治療薬やワクチンなど有効な対策は揃っていない現状で、果たしてどこまで受診者さんの数が戻ってくるでしょうか。NIPT検査に関する指針や施設認定の仕組みはどのように解決する方向に向かうのでしょうか。不透明なことだらけの現場で、どこまで持ち堪えられるかが課題です。

愚痴ばかりでなく、前向きで有用な情報を

 愚痴ってばかりいても仕方がないので、ここまで読んでいただいた方に少しでも当院の良さを知っていていただきたいと思います。

 当院では、他では扱えない検査を受けることができます。たとえば絨毛検査は、日本でこれを扱っている施設がかなり少ないので、当院に大学病院から検査依頼が来たりもします。羊水検査もそうなんですが、この検査のリスクについては、日本では高く言われすぎている嫌いがあります。また絨毛検査自体見たこともないというお医者さんも多いので、お医者さんでもリスクが高いという認識を強く持っている人がいます。この誤解については、また機会があれば記事にしたいと思っています。

 羊水検査についても、実施件数の少ない施設で受けるよりも確実に安全性が高いです。その上、胎児の所見に応じて、必要な検査をしっかり検討します。国内・海外の複数の検査機関とのつながりもありますので、難しいケースにも対応可能です。下手なところで羊水検査を受けると、検査手技自体のリスクも上がるし、その後の解析も通り一遍のもので、確実な診断につながらないこともあるし、時に検査結果の説明が不十分であったり誤っていたりする事例もあるので、注意が必要です。

 NIPTも完璧な検査ではありません。これはあくまでもスクリーニング検査です。血液で何かを知ろうとする前に、胎児を超音波で観察することが、妊娠初期でもすごく役に立つようになってきました。この分野も、日本は海外に比べてかなり遅れをとっていますが、当院はこれを専門にしています。NIPTを受けた方でも、妊娠初期の超音波検査を受ける意義は年々高まってきています。一般的な産科診療施設では全く行なっていない検査です。

 ブログを読んでいただいた方には、当院の良さを知っていただき、ぜひ多くの方にお勧めいただけるとありがたいと思っています。