FMC東京 院長室

遺伝カウンセリングと出生前検査に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

不育症患者が増えている!? ーーつづき2

当院に来院された、アスピリン投与やヘパリン・アスピリン併用療法を受けておられた妊婦さんで、以下のような方々がおられました。

1. 初めての妊娠だったが、かかっていた不妊症治療専門のクリニックで、各種凝固系の検査を受け、ちょっと気になる検査データがあるということで、治療を開始した。

2. これまで2回妊娠したが、2度とも妊娠初期の流産に終わった。血液凝固の検査を受けて、1項目に異常値が出たことより、治療を開始した。

3. ヘパリン・アスピリン併用療法を受けつつ妊娠を継続している。胎児の染色体異常が心配なので2回NIPTを受けたが、2回とも検査結果が出なかった。羊水検査を受けたいが、薬を中断することには抵抗がある。

これらのどこが問題なのでしょうか。一つずつ、確認していきたいと思います。

1. は、何よりもまず、流産歴がないという問題があります。治療が診断に基づいていないのです。流産したことのない人、初めて妊娠したような人が、なぜ検査を受けて治療を受けることになったのかが、全くわかりません。このような方が、何人もおられることに、正直驚いています。ご本人に伺うと、それまでの不妊治療でなかなか妊娠しなかったので、何かうまく妊娠が成立しない原因があるのではないかということで行なった血液検査の結果、凝固系検査の一項目が引っかかった。これを根拠にこの妊娠を確実に継続したいので治療を受けている。とおっしゃるわけですが、検査データというのが、本当に流産と関係するものなのか、何の根拠もありません。なにしろこれまで流産歴がないからです。

不妊治療が成功しないことと不育症になることとは、原因は同じではないし、因果関係もありません。ただ不安にさせられているだけではないでしょうか。

2. のようなケースは、いわゆる高齢妊娠の方に多いのですが、過去の流産の原因について、十分な検査が行われていないことがあります。例えば、流産の原因で最も多いものは染色体異常なのですが、過去の流産において染色体検査を行っていることはあまり多くはありません。妊婦が高齢になるほどに染色体異常が増加することはよく知られた事実ですので、もし調べていれば染色体異常が原因だったであろうと思われるケースもかなりあるはずなのです。それなのに、複数回の流産がまるですべて血液凝固のせいだったように解釈されているのは、明らかな間違いだと思われます。

習慣流産でありながらご夫婦の染色体検査を行わず、血液検査だけでアスピリン投与を行っていたケースの中で、胎児に異常所見があって検査したところ、胎児の染色体異常(不均衡型転座)が見つかり、これをもとに夫婦の染色体異常を行った結果、夫婦の片方に染色体の均衡型転座があったケースも、当院では経験しています。このような場合、今回の胎児の染色体異常は親の均衡型転座に起因していることはもちろんのこと、過去の流産の原因も、ここにある可能性がきわめて高いと言えます。やるべき検査が後手に回り、効果があるかどうか大いに疑問のある治療だけが行われていたことになるのです。

3. 高齢妊娠の場合、染色体異常が流産の原因であることが多いはずです。16トリソミーや22トリソミーがその原因としてよく知られていることは、すでに御紹介しました。しかし、同じトリソミーでも、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの場合には、流産せずに妊娠が継続することがあるので、これらを確認する検査としてのNIPTが提供されています。しかし、ヘパリン投与を受けている場合に、この検査の結果がうまく判断できなくなることが知られています。認可施設では、こういった現象についての説明もあるし、検査結果が出ない場合の原因の検証も行われていますが、未認可施設でNIPTを受けた場合、何の説明もなく、高額の支払いに対して何の結果も得られず、不安が大きくなり、羊水検査を検討するも、流産を心配して薬もやめられず、といった具合にどんどんと悪循環にはまっていきます。

正しい情報提供とそれに基づいた冷静な判断があれば、こういった事例は減るはずなのですが、残念なことにこのようなケースが増える傾向にあるように感じています。

ヘパリン投与(アザだらけになりながら自己注射を毎日しなければなりません)まではやらない医師が多いと思いますが、アスピリン投与は内服薬で済む上に、妊娠への悪影響もほとんどなく、手軽に行うことができるので、たいした根拠がなくても始めやすい治療です。結局原因がわからないのなら、一つでも流産につながる恐れのある可能性を消したい、わずかでも効果がありそうなら試してみたい、副作用の心配がほとんどないなら、流産を心配している人に対してこのぐらいの治療は良いんじゃないか。みんな何かにすがりたいという気持ちがあるのだから、気持ちを落ち着かせるだけでも良いんじゃないか。何もしないよりはいいじゃないか。といったような反論があるかもしれません。しかし、そのような考えに基づいて薬剤の投与を行うことは、よくないと私は考えます。

                        ーーーつづく