FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

染色体異常

「羊水検査で確定しないと中絶できません。」という方針、矛盾しているんじゃないですか?

出生前検査・診断の現場で、妊婦さんが直面する最も大きな問題は、『検査陽性』という結果を受け取った時に、妊娠を継続して出産を目指すのか、中絶を選択するのかの判断・選択でしょう。とくに、NIPTの場合、その結果は確定診断ではないけれど、検査精度は…

理想を語る小児科医たちの危惧が、世間の妊娠年齢の人たちにどの程度伝わるだろうか。ー第12回日本小児科学会倫理委員会公開フォーラムに参加して

3月6日7日の土日に2つのイベントがありました。(私たちが行っている医師対象の勉強会「FMC川瀧塾」(日曜午前)も加えると3つのイベントになります) 土曜の午後は、第4回新生児生命倫理研究会、そして日曜の午後は、第12回日本小児科学会倫理委員会公開フ…

医師の中に遺伝学的検査の必要性の認識が甘い人や検査結果解釈能力の低い人がいる!?

染色体検査などの遺伝学的検査への消極的態度について考える記事を続けてきました。その裏にある心理や考えを探ってきたわけですが、それ以前に、どうもそういった検査の必要性の認識が甘い医師や、解釈のための知識レベル自体が低い医師がいるのではないか…

なるべく検査を行わないように誘導する心理は、どこから来るのだろうか。その3

検査を希望したら医師に叱責されたという事例に遭遇することが多々あります。実際の事例を参考にしつつ、考えていきたいと思います。 出生前検査・診断の現場では、障碍をもちつつ生活を続けている人々が差別を受けることなく生きられる社会にしなければなら…

なるべく検査を行わないように誘導する心理は、どこから来るのだろうか。その2

前記事では、産科・妊婦診療の現場における検査忌避の状況について書きましたが、今回は小児科の現場で経験される話に言及したいと思います。 次子再発の懸念にどう対応するか 当院に検査の相談で来院される方の中に、病気や障碍を持つお子さんを育てておら…

なるべく検査を行わないように誘導する心理は、どこから来るのだろうか。その1

出生前診断に関わっている中で、よくある相談として、かかりつけ医が検査に否定的という話があります。比較的多いのは、検査そのものの話すら拒否するような態度や、検査の相談をしたら諌められたというような話ですが、もっと具体的な、検査方法はそこにあ…

専門的知識を必要とする検査を、専門家ではない医師が扱うべきではない。

現在議論になっている、NIPT(母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査)の扱い。常に話題の中心となっているのは、遺伝カウンセリング体制の充実の必要性であるように見受けられます。もちろんこれは大事なことなのですが、それ以前に、検査結果がどのよう…

2021年、年頭にあたって。 当院の強み・長所はなんだろう。 - 表に出ない仕事について

みなさま、新年あけましておめでとうございます。 昨年は、新型コロナウイルスに振り回された一年でしたが、今年はどうなるでしょうか。年頭にあたり、今年どういう姿勢でことにあたるべきか、考えてみたいと思います。例年ですと、それほど明確ではないにし…

検査を行わないという選択。患者の希望は、医師の説明に左右され過ぎていないだろうか。

前記事でとり上げた日本超音波医学会第93回学術集会。私自身も演題を2題発表しました。そのうち1題は、妊娠初期の胎児染色体異常スクリーニングに関するセッションでの「注目演題」、もう一題は、胎児の心臓の検査に関するものです。この学会はweb開催になっ…

胎児診断はいつ行われ、その結果はどう伝えられているのか - 『22週問題』について考える

先月から今月にかけて、出生前検査・診断に関連した話題を取り扱う複数の学会が、WEB開催されていて、日程も重なり、視聴するだけで忙しいという日々になっています。いろいろと気になる話題があるのですが、そのなかの一つを取り上げたいと思います。 12月1…

胎児に重い病気が見つかった時、私たちにできることは何か - ヨミドクター記事を読んで考えたこと

つい先日、読売新聞の医療・健康・介護サイト・yomiDr.(ヨミドクター)に、以下の記事が掲載されたことをYahooニュースで知りました。この記事、結構反響があったようで、twitterでも言及されているのを見かけましたし、コメント欄にもたくさんのコメントが…

NT肥厚に関する論文が、掲載されました。

あいかわらず胎児に「むくみ」があると指摘されたという相談がよく来る中、「海外のデータばかりでなく、自分たちのデータもちゃんと示して説明に使えるようにしたい。」と思っていたわけですが、学会発表したものをようやくまとめることができ、論文として…

検査をきちんと行うことは大事ですというお話

本日書く内容は、NIPTの話ではありません。検査を受ける/受けないは、自由意志で決定すべきことであり、それぞれの人が自分にとって必要なのか否かを判断できるようにサポートするところに、カウンセリングの役割があります。時に、NIPTの現場(“遺伝カウン…

全染色体の異数性を対象とするNIPTの問題点について

最近、学会に認定されていないNIPT実施施設(いわゆる『無認可施設』)で検査を受けた結果、21番、18番、13番以外の染色体のトリソミー陽性との結果が出たという相談が、連続してありました。この場合、少し難しい問題があるのですが、こういう結果を受け取…

NIPTと超音波検査は、互いに補完し合う検査として存在する。

先日、新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が解除されましたが、東京などでは7週間に及んだこの期間に、人々の働き方は大きく変化しました。私たち医療従事者は、日常診療など臨床業務は維持しましたが、学術集会や研究会などの学術活動は、人が集…

着床前診断について議論してきた人たちの倫理観に果たして一貫性があるのか?(その2)

その1を出してから、だいぶ時間が経ってしまいました。 新型コロナのことで頭がいっぱいになり、書きかけの原稿が止まっていたのですが、出しておかなければと思い、なんとか仕上げて出すことにしました。 日本産科婦人科学会「着床前診断」に関する見解(2…

着床前診断について議論してきた人たちの倫理観に果たして一貫性があるのか?(その1)

先日、すごく残念なことがありまして、書き残さずにはいられないのです。 それは何かというと、着床前診断の指針の問題です。 着床前診断(preimplantation genetic testing: PGT)には3種類あり、それぞれ、以下の名称で呼ばれています。 ・PGT-M (monogeni…

学会の認定を受けずにNIPTを行なっている医療機関が、X,Y染色体の数的異常の検査を行うことは大きな問題

このところちょっと学会の裏事情的な話題ばかりでしたが、それは一段落として、もう少し実際の診療に関わる話をしていきたいと思います。 現在、学会認可の施設でのNIPT検査は、3種類のトリソミーのみに限定されています。NIPTコンソーシアムからは、施設認…

第55回日本周産期・新生児医学会学術集会 シンポジウム4「新型出生前診断(NIPT)が、優生思想に流れないために」 噛み合わない議論

2019年7月13日から15日の3日間にわたって、長野県松本市で開かれた、第55回日本周産期・新生児医学会学術集会に参加してきました。表題のシンポジウムがあり、流石にこのことに言及しないわけにはいかないでしょう。 本当のところ、今回の学会には当院から一…

実際に出生前検査を専門的に扱っていてはじめてわかる、NIPTの今ある問題点と解決策

長い連休を経て、時代は平成から令和へとかわりました。この新しい時代に、日本の女性を取り巻く問題は大きく変わらなければならないと思います。今、様々な方面で、女性の権利やそれに関連する社会の問題の議論が表に出るようになってきましたが、私のもと…

9割が中絶という数字、どう捉えられているのだろうか

3月には連投していたこのブログ、その後日本産科婦人科学会の準備などもあって、放置状態になってしまっていました。本来であればこの学会の話題を記しておくべきなのでしょうが、いろいろと忙しくなってブログを更新する時間があまり取れず、、、気づけば今…

東京逓信病院に『東京ダウンセンター』開設

当院からほど近い場所に、東京逓信病院があります。この病院の小児科部長・小野正恵先生は、長年にわたり、ダウン症候群の方たちの診療を行い、医師として、またときには伴走者として、いろいろな方たちと関わりを持ってこられました。そんな中で、ダウン症…

日本ダウン症協会の意見表明

公益財団法人日本ダウン症協会(JDS)が、以下のような文書を出しています。 3月1日付です。 NIPT指針改定をめぐる動きについて http://jdss.or.jp/project/20190301jds.pdf 大変わかりやすい解説です。 さすがにこの問題に当事者の立場で長年向き合ってこら…

年頭所感:ある枠組みにまとめて同一視してしまうのはもうやめよう

皆さま、新年あけましておめでとうございます。 クリニックは、4日より診療を開始しました。 年末年始を脈絡なく過ごしたために、大事な執筆作業が思うようにはかどらなかったので、ブログの更新も途切れ途切れになりますが、年頭にあたって、このところ考え…

NIPTを扱う施設が林立してきましたが、どのように検査を扱っているのでしょうか?(ちゃんとやってるのか?)

NIPTの現状について問題提起する以下のブログ記事を書いたところ、それなりの反響をいただきまして、たいへんありがたいことと思う反面、まだまだ影響力は小さくて、肝心のところには届いてないなあと感じる今日この頃です。 drsushi.hatenablog.comこれを出…

受診者さんからの手紙:ヤコブセン症候群を持つ子のお母さんより

先日、当院で検査をお受けになったのちに、赤ちゃんを出産された方から、感謝のお手紙をいただきました。このようなお手紙は、スタッフ皆にとって大変励みになります。 この方は、5年前に出産された男の子に、『ヤコブセン症候群』という希少な染色体微細欠…

前途多難。(どうすればこの国の出生前検査の現状が改善できるのだろうか)

もう8月も終わりに近づいてきたわけですが、また暑さがぶり返してきて、体力を消耗する日々です。そんな中、最近たてつづけに悪い意味で驚くべき相談事例があり、気力まで消耗しそうになっています。もう本当にこの国は今後大丈夫なのか、この国でやっていけ…

NPO法人 親子の未来を支える会 のイベントに参加しました。

以前より交流のある、林伸彦医師(現在英国FMFに留学中)が理事長を務める、NPO法人 親子の未来を支える会 https://www.facebook.com/familyandbaby/ のイベント、ピアサポーター・ピアコネクター意見交換会に参加してきました。 1. イギリスの妊婦管理、出…

今日は、『世界ダウン症の日』でした。

今日、3月21日は、国連が制定した『世界ダウン症の日:World Down Syndrome Day』です。 各地でさまざまな啓発イベントが行われたようですね。まだしばらく行うものもいくつかあるようです。 世界ダウン症の日2018公式サイト | 公益財団法人日本ダウン症協会…

流産を止める魔法の薬などない!- 本当に必要な人のみが、本当に効果のある治療を受けるべき。

前にも書いたのですが、「不育症」治療がなぜか徐々に広がりつつあるようです。 不育症患者が増えている!? ーーつづき - FMC東京 院長室 不妊治療の末、妊娠出産に至ったという方のブログやフォーラムでの繋がりが、不妊・不育領域の新たな検査や治療につ…