FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

NIPT開始後 1ヶ月が経過しました。

NIPTを開始して1ヶ月を経過しました。

 開始したことで受診者がどっと増えたかというとそんなことはなくて、正直ぼちぼちでんなあという印象。

 おそらく何年か前だったらもう少し手応えがあったんじゃないかと思うんですが、何しろ東京は無認証クリニック花盛りですからねえ。それに、認証制度が厳しくて検査内容など自由度が低いこともやりにくさの一因と思います。認証制度の構築に携わっている方々の苦労もわかりますが、あまり良い形にはなっていないと感じています。

 現時点で感じる問題点について、列挙してみたいと思います。

 

・当院で検査を受けることのメリットが理解されにくい

 当院の専門性や検査にまつわる諸問題への対応の手厚さなど、なにか問題があって受診された方ならすごくよくわかっていただいていると思うんですが、単純に心配を解消したいから検査を受けたいとだけ考えている人にとっては、他院との違いを知る術があんまりないのかなと思います。これまで妊婦や胎児の診療などほとんどしたことのない医師しかいないような無認証クリニックは言うに及ばず、大学病院他立派な認証施設であっても、胎児の問題や遺伝学的検査・診断について、専門的に細かく対応できるところは実は希少なのですが、産婦人科ならだいたい同じように見てもらえると思っている人もけっこう多いのではないでしょうか。

 

・認証とかよくわからないけど、手軽に安く検査を受けられる方が良いと思っている人も多いのか

 同じ検査なら値段が安い方がいいと思うのは自然なことかもしれません。血をとるだけなんだから、違いなどないだろうと思うかもしれません。そこに落とし穴があるんです。

 実際に無認証クリニックではいくつかのメニューを用意していて、認証施設と同じ検査ならこれだけ安くできますと妊婦さんを引っ張ります。そのうえで、お勧めはこの検査と、もっと高い検査を勧めてきます。この高い検査では、さまざまな胎児の問題を知ることができると聞かされると、いろいろわかった方が良いと考えて結局高いお金を払わされることになります。でもその検査の結果にクリニックは責任を持ちませんし、意味がないとは言いませんが、ほとんどの方にとって払わなくてもいいお金を取られているのが実情だと思います。

 そんな検査にお金をかけても、胎児超音波検査で見つかる異常を検出できていないこともあります。全ての問題をチェックして陰性結果を得たのでもう完璧に安心と思っていたら、通院先での妊婦健診で胎児が浮腫んでいるなどの指摘を受けてパニックになるケースがあります。当院に紹介来院されて超音波検査をもとに診断がつくというケースも実際にあります。専門の医師が胎児をしっかり観察することの大事さを知ってほしいと思います。当院のような認証施設では、NIPTの対象は3種のトリソミーに限定されていますが、同時に胎児超音波検査を組み合わせることで、血液検査ではわからない胎児の問題を幅広くカバーすることが可能です。

 

・検査だけうけたい、遺伝カウンセリングとかは面倒。と思っている人も多いのかも

 どうも遺伝カウンセリングに対するイメージ・捉え方が、人によってだいぶ違うなと思うんですが、それは実際に“遺伝カウンセリング”を実施している側にも問題があると思うのです。

 出生前検査には常に賛否両論がありますので、これを積極的に実施しようとすると、強い反対意見(中には出生前検査アレルギー的な反応をする頑なで声の大きい方々もおられます)がでて、普及が阻止されるということがずっと続いてきたように思います。この状況を打破して世界で正当に発展してきた技術を導入しようと考え、なんとか軋轢を産まない形で真面目に検査を扱って普及を目指そうとした人たちが、「遺伝カウンセリング」が大事だというアピールをおこなってきました。

 しかし、どうもこの「遺伝カウンセリング」の捉え方というか、実践のされ方が、専門家の間でもあまり均一ではないようなのです。この分野の偉い先生によく見られる現象として、自分たちよりも若くかつ専門的知識を持たない妊婦さんとそのパートナーに対して、まるで無知な人たちを教育するような感じや、あるいは自分の考え(それが正しいと信じている)を教え諭すような態度で話をしているような状況があるようなのです。それって、遺伝カウンセリングの本来の姿ではないと私などは思うのですが、なんとかある特定の方向に誘導しようとするようなことまであるようです。また、今日話した内容について一度持ち帰って夫婦で考えてくるようにという形にして、その日には検査を行わないような回りくどいことをやっている施設もあったりします。

 そりゃあ「遺伝カウンセリング」のイメージも悪くなりますよ。

 当院での検査を希望して問い合わせて来られる方の中にも、一定数「遺伝カウンセリングはいりません。」と仰る方がおられます。「既に受けた」という方もおられますが、話をしてみると出生前遺伝カウンセリングの場で話していそうな内容についても「聞いたことがない」というケースもあります。当院で改めて遺伝カウンセリングを受けていただいた方々からは、「全然違ってました。」という感想が聞かれることも多いです。

 なんだか、面倒なことは避けたいという気持ちで、手軽に検査できる無認証クリニックが選択されているのだとしたら、悲しいです。手軽に受ける気持ちが、後でたいへん面倒なことになるケースも、見聞きしています。

 

当院の強み

 先にも書きましたが、当院の他施設との違いの最も大きい点は、NIPTと同時に行うことのできる妊娠初期の胎児超音波検査が、一般的な産科外来はもちろん、専門的な医師がいそうな他の認証施設とも一線を画している点でしょう。この時期(妊娠12週から13週)での胎児超音波検査は、日本ではほとんど普及していませんでしたし、そのせいで研修医・専攻医に対する教育もありませんでした(教えることのできる人もいないので)。当院では、この点について常に海外の情報を得ながら、知識と技術とを更新し続けています。またこれらを日本の他の施設や若手医師にも習得してもらえるように、講習会を開催し続けています。

 また、当院の大きな特徴として、医師が超音波検査や絨毛検査・羊水検査を行う診療部門と併設した形で、認定遺伝カウンセラーが情報収集し、多くの新しい情報をもとに遺伝カウンセリングを行うとともに、周産期医療施設との医療連携までをも担う、「医療情報・遺伝カウンセリング部」を置いていることがあります。控えめに言って、当院が構築している専門家のネットワークはハンパないです。出生前に胎児に見つかる問題や、先天性の異常、遺伝疾患には数多くの種類がある上に、いまだ明確にならないものまでたくさんのものがあって、その分、それらの多くの問題それぞれの専門家は、いろいろな場所に散らばって存在します。私たちは、そういうさまざまな分野の専門家とのネットワークを国内海外を問わず広げ、構築し、適切に対応できるよう努力を続けています。

 

 出生前の胎児に関して、とりあえず手っ取り早く心配を減らそうと考えて、胎児を見ることもしないクリニックで血液検査を受けるよりも、ちゃんと胎児を見て状況を教えてもらえる施設を選択してほしい。そこで得ることのできた安心こそが、本物の安心だと思います。

 もし、無認証のクリニックで、そこではきちんとした説明の聞けないような結果が出てしまったなら、ぜひ当院に相談していただきたいと思います。そういう難しいケースは、普通の産婦人科では十分に対応できない可能性が高いです。

 たとえば、先日ある新聞の特集記事の中で、無認証施設でうけたNIPTの結果、細かい問題を指摘され、胎児に異常があると思い込んで中絶を決めておられたが、大学病院できちんと検査した方が良いという説得を受け、いろいろ検査したところ問題がないことが判明したという事例が紹介されていました。この件は、問題のないお子さんの命を危うく絶つところだったところ、よく思いとどまられた、大学病院の対応で救われた、素晴らしい結果だったと思います。ただ、細かいことを言うと、この方の胎児に見つかったものは実は正常児にある一定の割合で見つかるもので、もうそれは確実に家計が代々引き継いでいるものと言えることをわれわれは知っているので、大学病院でおこなった両親の血液との照合という手順をわざわざ踏まなくても問題ないと説明可能なものでした。しかしこのようなケースは大学病院だからここまで対応できたので、市中の普通の産婦人科に行っていたら、対応はどうだっただろうかとも思わずにはいられません。そのくらい、遺伝学的情報の更新速度は早くなっているので、常に新しい情報を更新し続けている専門施設でないと対応できないことがあるのです。

 私たちは、専門施設であるが故の強みをこれからも生かしていけるよう、日々研鑽を積み続けたいと考えています。