FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

ブログを移転します。

いつもこのブログを読んでいただいている皆様に、ご連絡があります。

 

この度、FMC東京クリニックのウェブサイトの改修・更新作業を進めており、その一環として、このブログをクリニックのサイト内に移転することといたしました。

移転作業は順調に進んでおり、間も無く完了します。その際には、はてなブログでの公開は終了とし、このサイトは閉鎖いたします。はてなにおける私のアカウントも終了する予定です。

約1週間ぐらい先に、上記の作業を完了いたします。

これまでお読みいただいていた皆様、今後は、当院公式サイト

www.fmctokyo.jp

を覗いていただけますと、ありがたく存じます。(更新の連絡は行かなくなりますこと、ご了承ください)

何卒よろしくお願いいたします。

 

中村靖

2022年は、出生前診断元年になったのか?

あっという間に2023年の1月が過ぎ去ってしまいました。ブログ記事を一つも書かないうちに、もう2月になって焦っています。

 昨年の10月からNIPTをやれるようになって、それまで「NIPTやれない問題」と対峙して、なんとか壁を乗り越えよう、鍵をこじ開けようとしていた必死さ、渇望感が、一気に薄れたこともあると思います。正直クリニックの死活問題でしたので、心理的にギリギリのこともありました。これを乗り越えて、発信しなければという追い詰められた状態から脱したのもありますが、同時にまだまだやらなければならないことも多々あって、忙しくなっていました。そのあたりのことについて、書きたいと思います。

 

 さて、昨年1月に、2022年を出生前検査元年にできるかどうかということを書きました。

drsushi.hatenablog.com

あらためて読んでみると、やはり必死だったなあ、自分自身余裕がなかったなあと感じますね。そして、この種の問題について意図がうまく伝わるように書くことは難しいものだなあとも思います。書き直しているにも関わらず、殴り書きのような文章になっていて、自分で読んでも伝わりにくそうに感じてしまいました。

 あれから1年経って、委員会が動き始めて、NIPTを実施する「認証施設」も増えつつあり、今現在がどうなったのかについて、考えてみます。

 

1月は多忙でした。

 実はこのところ、クリニックでの診療という日常業務以外のところで、複数の仕事が重なるという忙しさになっていました。もともと私が長年やっていた大学病院での仕事には、臨床・研究・教育という3つがあり、その立場から開業医に転身した場合は、普通は臨床中心にシフトするものなんです。しかし、立場は開業医でも私のやっていることは特殊なものなので、今でもこの3つを常に意識しています。学会に参加して定期的に発表し続けているのもその一環です。本来ならばそこから論文を執筆することが必要で、できれば今年は国際的な学術誌に何本か論文を出したいとも考えているのですが、まだ着手できていません。

 では何が忙しかったのか。まず、ここ数年にわたって準備をしていた専門書の作成が最終段階に入っていること(これについてはまた別に報告したいと考えています)など、国内の同業者を対象とした情報発信や、依頼原稿の執筆などが重なりました。そういう仕事をする中で調べ物をしていたり、診療の中で遭遇するいろいろなケースに関連して新しい資料を探したりしていると、ここ数年ずっと続けている出生前診断の勉強会「FMC川瀧塾」の内容を毎度毎度更新する必要が生じてきました。診療面でも、NIPTを開始したとはいえ、まだまだ認証施設ではない美容外科などが検査を行なっている状況が続いているので、多くの方に当院のことを認知してもらう必要性は減りません。情報発信に取り組むことも続けなければなりません。

 

情報発信をどうする?

 それと同時に、昨年厚労省の方針が「出生前検査の認知度を高めるべく、妊婦さんや家族・パートナーに対し、積極的に情報提供を行う」ことになった(これが出生前診断元年といえるようになる第一歩だと考えていたわけです)ことが、本当にうまく進んでいるのかどうかという問題が見えてきました。

 私たちは、NIPTが実施できるようになる以前の段階で、どうも日本における出生前検査の扱いがうまくない方向に向いたままになっていると感じ、有志を募って正しい情報発信ができる場を作ろうという計画を立てていました。ウェブサイトの作成は、もう一歩のところまで進んでいたのですが、継続性まで含めて構想を実現させるには、今やっている仕事量に上乗せするには負担が大きすぎるなど、物事を思い通りに進められるかどうかの不安があり、また、複数の専門家の考えが必ずしも同じ方向を向いているわけでもないことに気づき、計画をストップさせてどうするべきか考えていました。

 

新たな情報提供のプラットフォームづくり

 そんな中、厚生労働省が出生前検査の普及啓発事業を募集してこれに援助を行うという話があり、この話の流れの中で、私に協力要請がありました。実は昨年、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会のウェブサイトが立ち上がり、この中の一般の方向けページで様々な情報提供が行われることを聞いており、充実したページになることが期待されたのですが、これがなかなかアップされないままになっていました。

 ちょっと中の人に近い筋から漏れ伝わってくる話では、このページの内容はもう出来上がっているのだが、様々な意見があって、なかなか公開に至らないとのことでした(つい最近、ようやく更新されました)。こういう話を聞いて、またその周囲の状況(後述します)から考えて、出生前検査・診断に関連する情報提供やこの国における普及の道筋は、まだまだ問題山積で、油断していると思わぬ方向に向かいかねないと感じました。

 こういった事情もあって、私は普及啓発事業の一環としてスタートすることになった別サイトの作成に参画することにしたのです。オフィシャルにいろいろと出て来る情報の内容や出し方に、周囲から文句を垂れているだけでは何も変わらない、きちんとした形で発信されるものの中に、可能な限り意見を反映させていくべきだと判断したからです。現在作成中のサイトには、複数の立場の専門家が参画し、意見調整を行いながら作業を行なっています。厚生労働省が関わる事業ですので、日本医学会が発信する情報との整合性も考えなければならず、全ての意見を押し切れるものでもありません。どうしても妥協点を見出していく作業となりますが、意見できるところはきちんと意見して作業を進めているつもりです。

 実はNIPTを開始するにあたり、認証の過程や認証後の運営委員会からの要請などについて、不満に感じる点もいくつかありました。これは私たちのみならず、私たちよりも少し前に認証を受けた「基幹施設」の先生方からもいろいろ聞かされていました。例えば検査前の説明・遺伝カウンセリングの際にはこの資料を使用するようにとされている文書についても、問題に感じる部分が多々あるのです。基幹施設の中にも、この文書は一応形式的には見せてはいるがあまり使っていないというところがあることを知っています。だから、私たちが関わるサイトでは、その問題に感じる部分を可能な限り排除して、ちょっと違ったものにしたいという気持ちもあります。全く違う意見開示になってしまうと両方読む人が混乱するので、全否定するようなことは出しませんが、伝え方など工夫できればと思っています。

 

結局2022年は、出生前診断元年になったのか?

 さて、表題の2022年が出生前診断(検査)元年になったのかどうか?ですが、形の上ではそうなったと言えるはずだと思います。長年のコンセプトに変化が起きて、状況を変えていこうという動きは始まったわけです。ただ、本当の意味でそう言えるようになるのかどうかはこれからの課題です。

 後年になって、「あの時が、日本における出生前診断元年だった。」と振り返ることができるようになるよう、まだまだやらなければならないことはたくさんあると感じています。

受診者さんからいただいたお便り:足先のない赤ちゃんは、誰よりも元気です!

出生前診断を専門に扱っていると、さまざまな問題を抱えた胎児に出会います。その問題がどの程度のものなのか、実際に生まれてきたらどうなるのか。胎児の検査だけで将来の生活ぶりまで予測することは簡単ではありませんが、これから生まれてくるお子さんは、生まれてきてからが人生の始まりです。人生が始まる前段階で、この子がどのように生きていくことができるのだろうと、妊婦さんは不安で仕方がないでしょうから、私たちは可能な限り的確に予測しなければなりません。

 私たちは、その診断に重い責任を負うことになると考えると、それは重圧にもなりますが、実際にこれから産んで育てていく妊婦さん自身の責任感や重圧の比ではないことでしょう。ましてや、産むのか、妊娠の継続を諦めて中絶するのかという選択が可能な時期においては、自分と胎児の一生に関わる問題について短期間での決断を迫られることもあり、それはたいへんな心身への負担だと思います。

 胎児の持つ問題を指摘された後で、さまざまな葛藤を乗り越えて出産を選択された場合には、その後無事出産されたのか、生まれてきた赤ちゃんの状態はどうだったのか、生まれた後順調に成長しておられるのか、私たちの指摘できていない問題が見つかったりはしていないだろうかなど、いろいろなことが頭に浮かびます。当院を受診された後の経過について、可能な限りご報告いただけるよう、アンケートフォームをお渡ししたりして情報収集に努めてはいるものの、十分に把握できないケースや、出産の時のことはわかってもその後どうされているかまではなかなかフォローできないケースもあって、どうすればより良いかを考えています。

 そんな中、当院を受診後に出産された方から、ご報告をいただくことがあります。以前にも別のケースでこのブログで紹介させていただいたものもありますが、今回はまた新たな一例について、ご両親の許可を得て紹介したいと思います。

 

超音波検査で予期せぬものが見つかる

 実は今回ご報告をいただいた方は、お子さんを3人出産されており、一人目の時も二人目の時にも、当院で検査を受けていただいていました。二人目のお子さんでは、右足の第4趾(手でいう薬指)の位置が少しずれていて他の指ときれいに並んでいないこと(短趾症)を胎児期に発見したのですが、大きな問題に至ることはないと判断し、そのまま元気に生まれ成長しておられました。この特徴は、けっこう多いのです。

 さて、3人目のお子さんについても、前2回と同様に妊娠19週の時に胎児超音波検査を行いました。大きな問題なく順調に育っていることを確認できましたが、足先に問題が見つかりました。今度のお子さんは、左足の足先自体がなかったのです。細かくいうと、足趾(足の指)が5本とも不明瞭で、足全体が短い形をしていました。これは妊婦さんにとってはショックなことだったと思います。他には全く問題はなかったけれど、足先がなくて歩けるのか?本当に他の部分には問題はないのか?いろいろな心配が頭を駆け巡ったことと思います。

 私もプレッシャーを感じました。体の他の部分に絶対に見落としがないと言えるのか。この足先の問題が症候群の一部を見つけたに過ぎず、後になって他のいろいろな問題が判明するということはないのか。もう一度他の部分を徹底的に観察しました。

 産科のお医者さんの多くは、手足の指の問題など瑣末なもので、生まれる前に見つけてもどうなるものでもないとお考えになっているように思います。変に見つけてしまっても対処のしようがないし、妊婦さんを混乱させるだけと思っておられるのではないかと思います。しかし、それほど頻度が高いものではないにしても、手や足の問題が特徴的な症状であったり、この問題をきっかけとして見つかったりする症候群も存在することをわれわれは知っているし、実際に経験もしています。だから、ほんのちょっとした問題でも見つけると、検査中の緊張感は一気に高まります。

 幸いなことに、この方のお子さんには、この足先の問題以外には特に気になる部分は何もなくて、症候群の可能性は極めて低いと判断することができましたし、羊膜索症候群(羊膜が一部剥がれたようになって策状物を作り、これが手足に巻きつくことで切断が起きる病気)の原因となる策状物もないので、新たに別の場所に同じような症状が出現することも考えられないということができました。そして、人より早く走ることや強く踏ん張ることはできなくても、普通に生活する分にはほぼ支障なくいられるようになるだろうという予想もできましたので、そのようにお伝えしました。

 その後この方は、かかりつけ医のところに戻られ、小児病院との連携のもと出産されたのですが、生まれたお子さんの状況について便りを送っていただきました。以下で引用しつつ紹介したいと思います。内容は一部改変しています。

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問い合わせではないのですが、お礼を申し上げたく連絡をさせて頂きました。

〇〇〇〇と申します。
長男(○歳)長女(○歳)次女(○歳)でお世話になりました。
次女の左足先端未発達を早々に診断していただき、当初は大変混乱しましたが…結果的に産むまでの間に気持ちの整理をつける事が出来ましたし、出産前から出産した病院と隣接する小児病院の整形外科が連携を取ってくれました。これも早い段階で診断して頂けたからと感謝しております。
出産した病院の医師が仰ってました。
“命に関わる臓器は注意して観察するが、正直、四肢に関してはある程度しか診ていない。だから産まれてきて初めて分かる例も沢山ある。もしかしたらあなたの赤ちゃんの足の事も気がつかないままだったかも知れない。”と。
それを聞き、私は事前に知る事が出来て本当に良かったと思いました。

お陰様で1歳5ヶ月を迎えた次女は中村先生のご推察通り歩行に関しては何ら問題なく、むしろ小走りもするようになりました。
昨年末に引っ越しをしたのですが、先日こちらの小児病院でも診てもらった結果“足の長さ左右差無し、股関節に問題無し、よって装具による補助及びそれに伴うリハビリのみで大丈夫”との事でした。

3人の中の誰よりも活発ですくすく育つ彼女を見ていて、産んで良かったと心から思う日々です。
一瞬、ほんの一瞬、産むことを躊躇った自分に“あの時産むと決断して良かったね!”と言ってあげたいです。
今後彼女が直面するであろう苦悩の日々も、家族一丸となり寄り添って行こうと強く心に決めております。

中村先生をはじFMC東京の皆様、本当にありがとうございました。

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 私たちにとって、このようなお便りをいただくことが、どれほど嬉しいことか。この仕事のやりがいを感じます。

 ちょっとした問題でも、事前に知っておくことはとても大事なことだと思いますので、きちんとお話しするのが基本だと考えています(ただし、単独の側脳室内脈絡叢嚢胞のように、一時的な見え方だけの問題であることがわかっているようなものについては、余計な心配をかけても意味がないので、お話ししないこともあります)が、その情報をどのようにお伝えするべきかについては、いつも気を遣います。しかし、早めにわかったからよかったと言っていただけると、私たちのやり方は間違ってなかったと確信することができます。

 

ひとりひとりの胎児を丁寧に見ていきたい

 私が常々不思議に感じていたことの一つに、超音波検査の際に妊婦さんご自身やご家族の方が、「指は5本ありますか?」と聞かれることが多いというものがあります。なぜ不思議に感じるかというと、私たちから見ると、指の数の問題が見つかるケースは心臓などの問題に比べて頻度は低いし、重大性も低いと考えるからです。おそらく普段産科の現場に関係することのない方々にとっては、なんとなくのイメージとして、指の数が多い少ないというようなことがわかりやすい先天性の問題として認識されていて、思い浮かびやすいのかなあと思います。おそらく産科医が、産科外来における超音波での観察の際に、この質問を受けていることはかなり多いと想像します。そして、若い頃の私がそうであったように、この質問をされるとちょっとイラッとしてしまうことがあると思います。「そんなこと大きな問題じゃないではないか、もっと大事なところに目を向ける必要がある。」「妊婦健診の時にそこまでみている時間はない。」などといった気持ちになることがあるのです。

 しかし、長年いろいろな妊婦さんと胎児を見てきて、そして胎児検査専門クリニックを立ち上げて毎日多くの数の胎児を見続けてきて今思うことは、どんな細かいことでも見逃さないことは大事だということです。ちょっとした指の問題だって馬鹿にならないのです。そこからいろいろな発見に繋がることもあるし、もしその子の持つ問題が、指だけにとどまっていたとしても、それはそれで生活上何かと支障があったり、本人的には傷つくことに繋がったり、他人が「軽い問題」と安易に言ってしまえるものではないはずなんです。

 私は、当院を受診される方は、ふだんの健診を受けている医療施設とは別の場所に、わざわざ足を運んできてくださっているのだから、ここを受診したということが意味のある体験であってほしいと考えています。以前にとある方から、「毎日、胎児の検査ばかりやっている仕事は、おもしろいですか?」と聞かれたことがあります。言外に、赤ちゃんが産まれてくるお産への関わりもなく、婦人科手術をするでもなく、同じことばかりやっている単調な仕事はつまらないでしょうという気持ちが込められていたように感じます。しかし、私の答は、「おもしろいです!」。いろいろな妊娠、いろいろな胎児の問題、いろいろなカップルや家族の人間模様、真摯に向き合って私自身が得るものもたくさんあります。

これからも、一般的な産科外来ではここまではみてないだろうという部分も含め、きめ細かい観察をして、当院に来院される方々の期待に応えられるよう精進していきたいと思います。

NIPT開始後 1ヶ月が経過しました。

NIPTを開始して1ヶ月を経過しました。

 開始したことで受診者がどっと増えたかというとそんなことはなくて、正直ぼちぼちでんなあという印象。

 おそらく何年か前だったらもう少し手応えがあったんじゃないかと思うんですが、何しろ東京は無認証クリニック花盛りですからねえ。それに、認証制度が厳しくて検査内容など自由度が低いこともやりにくさの一因と思います。認証制度の構築に携わっている方々の苦労もわかりますが、あまり良い形にはなっていないと感じています。

 現時点で感じる問題点について、列挙してみたいと思います。

 

・当院で検査を受けることのメリットが理解されにくい

 当院の専門性や検査にまつわる諸問題への対応の手厚さなど、なにか問題があって受診された方ならすごくよくわかっていただいていると思うんですが、単純に心配を解消したいから検査を受けたいとだけ考えている人にとっては、他院との違いを知る術があんまりないのかなと思います。これまで妊婦や胎児の診療などほとんどしたことのない医師しかいないような無認証クリニックは言うに及ばず、大学病院他立派な認証施設であっても、胎児の問題や遺伝学的検査・診断について、専門的に細かく対応できるところは実は希少なのですが、産婦人科ならだいたい同じように見てもらえると思っている人もけっこう多いのではないでしょうか。

 

・認証とかよくわからないけど、手軽に安く検査を受けられる方が良いと思っている人も多いのか

 同じ検査なら値段が安い方がいいと思うのは自然なことかもしれません。血をとるだけなんだから、違いなどないだろうと思うかもしれません。そこに落とし穴があるんです。

 実際に無認証クリニックではいくつかのメニューを用意していて、認証施設と同じ検査ならこれだけ安くできますと妊婦さんを引っ張ります。そのうえで、お勧めはこの検査と、もっと高い検査を勧めてきます。この高い検査では、さまざまな胎児の問題を知ることができると聞かされると、いろいろわかった方が良いと考えて結局高いお金を払わされることになります。でもその検査の結果にクリニックは責任を持ちませんし、意味がないとは言いませんが、ほとんどの方にとって払わなくてもいいお金を取られているのが実情だと思います。

 そんな検査にお金をかけても、胎児超音波検査で見つかる異常を検出できていないこともあります。全ての問題をチェックして陰性結果を得たのでもう完璧に安心と思っていたら、通院先での妊婦健診で胎児が浮腫んでいるなどの指摘を受けてパニックになるケースがあります。当院に紹介来院されて超音波検査をもとに診断がつくというケースも実際にあります。専門の医師が胎児をしっかり観察することの大事さを知ってほしいと思います。当院のような認証施設では、NIPTの対象は3種のトリソミーに限定されていますが、同時に胎児超音波検査を組み合わせることで、血液検査ではわからない胎児の問題を幅広くカバーすることが可能です。

 

・検査だけうけたい、遺伝カウンセリングとかは面倒。と思っている人も多いのかも

 どうも遺伝カウンセリングに対するイメージ・捉え方が、人によってだいぶ違うなと思うんですが、それは実際に“遺伝カウンセリング”を実施している側にも問題があると思うのです。

 出生前検査には常に賛否両論がありますので、これを積極的に実施しようとすると、強い反対意見(中には出生前検査アレルギー的な反応をする頑なで声の大きい方々もおられます)がでて、普及が阻止されるということがずっと続いてきたように思います。この状況を打破して世界で正当に発展してきた技術を導入しようと考え、なんとか軋轢を産まない形で真面目に検査を扱って普及を目指そうとした人たちが、「遺伝カウンセリング」が大事だというアピールをおこなってきました。

 しかし、どうもこの「遺伝カウンセリング」の捉え方というか、実践のされ方が、専門家の間でもあまり均一ではないようなのです。この分野の偉い先生によく見られる現象として、自分たちよりも若くかつ専門的知識を持たない妊婦さんとそのパートナーに対して、まるで無知な人たちを教育するような感じや、あるいは自分の考え(それが正しいと信じている)を教え諭すような態度で話をしているような状況があるようなのです。それって、遺伝カウンセリングの本来の姿ではないと私などは思うのですが、なんとかある特定の方向に誘導しようとするようなことまであるようです。また、今日話した内容について一度持ち帰って夫婦で考えてくるようにという形にして、その日には検査を行わないような回りくどいことをやっている施設もあったりします。

 そりゃあ「遺伝カウンセリング」のイメージも悪くなりますよ。

 当院での検査を希望して問い合わせて来られる方の中にも、一定数「遺伝カウンセリングはいりません。」と仰る方がおられます。「既に受けた」という方もおられますが、話をしてみると出生前遺伝カウンセリングの場で話していそうな内容についても「聞いたことがない」というケースもあります。当院で改めて遺伝カウンセリングを受けていただいた方々からは、「全然違ってました。」という感想が聞かれることも多いです。

 なんだか、面倒なことは避けたいという気持ちで、手軽に検査できる無認証クリニックが選択されているのだとしたら、悲しいです。手軽に受ける気持ちが、後でたいへん面倒なことになるケースも、見聞きしています。

 

当院の強み

 先にも書きましたが、当院の他施設との違いの最も大きい点は、NIPTと同時に行うことのできる妊娠初期の胎児超音波検査が、一般的な産科外来はもちろん、専門的な医師がいそうな他の認証施設とも一線を画している点でしょう。この時期(妊娠12週から13週)での胎児超音波検査は、日本ではほとんど普及していませんでしたし、そのせいで研修医・専攻医に対する教育もありませんでした(教えることのできる人もいないので)。当院では、この点について常に海外の情報を得ながら、知識と技術とを更新し続けています。またこれらを日本の他の施設や若手医師にも習得してもらえるように、講習会を開催し続けています。

 また、当院の大きな特徴として、医師が超音波検査や絨毛検査・羊水検査を行う診療部門と併設した形で、認定遺伝カウンセラーが情報収集し、多くの新しい情報をもとに遺伝カウンセリングを行うとともに、周産期医療施設との医療連携までをも担う、「医療情報・遺伝カウンセリング部」を置いていることがあります。控えめに言って、当院が構築している専門家のネットワークはハンパないです。出生前に胎児に見つかる問題や、先天性の異常、遺伝疾患には数多くの種類がある上に、いまだ明確にならないものまでたくさんのものがあって、その分、それらの多くの問題それぞれの専門家は、いろいろな場所に散らばって存在します。私たちは、そういうさまざまな分野の専門家とのネットワークを国内海外を問わず広げ、構築し、適切に対応できるよう努力を続けています。

 

 出生前の胎児に関して、とりあえず手っ取り早く心配を減らそうと考えて、胎児を見ることもしないクリニックで血液検査を受けるよりも、ちゃんと胎児を見て状況を教えてもらえる施設を選択してほしい。そこで得ることのできた安心こそが、本物の安心だと思います。

 もし、無認証のクリニックで、そこではきちんとした説明の聞けないような結果が出てしまったなら、ぜひ当院に相談していただきたいと思います。そういう難しいケースは、普通の産婦人科では十分に対応できない可能性が高いです。

 たとえば、先日ある新聞の特集記事の中で、無認証施設でうけたNIPTの結果、細かい問題を指摘され、胎児に異常があると思い込んで中絶を決めておられたが、大学病院できちんと検査した方が良いという説得を受け、いろいろ検査したところ問題がないことが判明したという事例が紹介されていました。この件は、問題のないお子さんの命を危うく絶つところだったところ、よく思いとどまられた、大学病院の対応で救われた、素晴らしい結果だったと思います。ただ、細かいことを言うと、この方の胎児に見つかったものは実は正常児にある一定の割合で見つかるもので、もうそれは確実に家計が代々引き継いでいるものと言えることをわれわれは知っているので、大学病院でおこなった両親の血液との照合という手順をわざわざ踏まなくても問題ないと説明可能なものでした。しかしこのようなケースは大学病院だからここまで対応できたので、市中の普通の産婦人科に行っていたら、対応はどうだっただろうかとも思わずにはいられません。そのくらい、遺伝学的情報の更新速度は早くなっているので、常に新しい情報を更新し続けている専門施設でないと対応できないことがあるのです。

 私たちは、専門施設であるが故の強みをこれからも生かしていけるよう、日々研鑽を積み続けたいと考えています。

NIPTを開始します!2022年10月、ついに実施可能になりました。

満を持してというのか、遅きに失してというべきか、いや遅すぎたとは思いたくないまだまだこれからの話とは考えているわけですが、当院でもついに、というかやっとというか、NIPTを開始することになりました。

 2022年9月12日に、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会が、NIPTを実施する医療機関(連携施設)を認証し、同26日より認証という形になりました。この中に当院も含まれています。

 運営委員会からは、以下の内容のメールが届きました。

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医療法人社団メタセコイア FMC東京クリニック

実施責任者 中村 靖殿

 

貴施設は、令和4年9月12日に開催された第4回出生前検査認証制度等運営委員会において、NIPTを実施する連携施設として認証されました。

なお、認証登録開始日は、令和4年9月26日(月)となります。

添付にて「NIPTの実施について(周知)」をお送りいたしますので、ご確認ください。

認証証は今後順次郵送いたします。

なお、本メールに「日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会」のバナーデータを添付いたします。貴施設ウェブサイトに、本バナーをご掲載のうえ運営委員会ウェブサイトにリンクを張っていただくことも可能です。(https://jams-prenatal.jp/

 

出生前検査認証制度等運営委員会

委員長 岡 明

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いやあ、正直感慨深いです。

 思えば長い年月でした。

当院の前身となる「胎児クリニック東京」を神田淡路町に開設したのが2013年。ちょうどNIPTの臨床研究が開始された年でした。これに先立つ2012年8月、読売新聞1面に「妊婦血液でダウン症診断」の文字が踊り、このときに予定されていた臨床研究の開始が8ヶ月後にずれ込んだのでした。分娩を扱わず小児科医もいない私たちのクリニックは、この臨床研究に参加する資格はありませんでしたが、私はこの新聞記事が出る直前に行われていた、この臨床研究を行う中心的存在であった「NIPTコンソーシアム」の会議には参加していました。この頃、臨床研究が順調に進んで結果が出たら、NIPTは一般臨床として行われるようになり、そうすれば私たちも実施しようと考えていました。何しろ私たちは、出生前検査を専門に行う施設であり、NIPT以外の全てを日常的に扱っていたのですから。

 それがなぜかいつまで経っても、関係各学会の思惑や対立などの末、厚生労働省案件になるなどして実施できる目処が立たず、そうこうする中で認定外のクリニックが乱立するようなとんでもない状況になり、元はと言えば日本の出生前検査の健全な発展のために考えられたはずの臨床研究からのスタートが、結果的にはよりひどい広がり方になってしまうのを外側から見ていなければならない日々は、本当に辛いものでした。

 そもそもなんでこんな苦労しなければならなかったのか、という忸怩たる思いはあります。

 このあたりの顛末は、このブログでも何度も取り上げてきましたから、ぜひ過去記事を見てただきたいと思います。

 

 何はともあれ、ようやく、NIPTを開始することができるようになりました。

 私たちこそが、この検査を正当に扱うことのできる施設であるという気持ちを胸に、生まれる前の胎児の状態について、他にはないレベルの知識と技術を駆使して、総合的な判断を行う仕事に邁進していきたいと思います。

 

 実際には、この認証制度のあり方など、まだまだいろいろな問題点は残されています。上に示した認証制度等運営委員会からのメール内に記載してある、「NIPTの実施について(周知)」の内容に関しても、問題提起が必要な部分が多々あるのが現状です。

 正直言いまして、お上によって認証していただきありがとうございますというような卑屈な気持ちは微塵もありません。認証されてほっとしたのも束の間、むしろ今回届いた文書を読んで、あるいは作成された資料を見て、「いったいなんでこうなるんだ。」と思うようなことの方が多いのです。これは今後も戦いは続くのかなと思わざるを得ません。

 この国の出生前検査、そして胎児診断・胎児治療へと続くこの分野の健全な発展のため、まだまだ頑張っていきたいと決意を新たにしています。

 

日本母体胎児学会ディベート「NIPTの認定基準は必要か否か」に登壇しました。

先週末の3日間、第44回日本母体胎児学会学術集会が仙台で開催され、久々に現地参加してきました。

 学術集会全体のテーマが、「Controversies in Obstetrics」というもので、現在産科領域のなかで議論の対象となる6つのテーマについて、対立する立場からの主張を戦わせるディベート企画がメイン企画として設定されました。この企画は、会長である室月淳教授(宮城県立こども病院/東北大学大学院医学研究科)の肝煎りのアイデアで組まれたもので、このコロナ禍で海外からのゲストを呼んで特別公演を組んだりすることが困難な中、頭を捻って出されたアイデアでしたが、興味深いプログラムに参加者も多く、設定されたどのテーマにおいても議論は盛り上がり、学会全体として素晴らしいものになった、参加者もみな勉強になったと好評でした。

第44回母体胎児医学会学術集会

「NIPTの認定基準は必要か否か」

 私は、6つのテーマのうちこの学術集会の最後を飾るプログラムになった、「NIPTの認定基準は必要か否か」に、講演者として登壇しました。

 この企画では、通常のディベートのように、「是」か「非」かの二つの立場に別れて議論するものと少し趣を異にしていて、3名の登壇者が三者三様の立場からの意見表明をおこないました。

 日本産科婦人科学会の立場から(これまで認定基準を設定し、運用してきた立場です)、旧「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会長を務められた久具宏司医師、認定をうけないまま検査を実施してきた立場から、DNA先端医療株式会社の栗原慎一社長、そしてこれまで施設認定を受けることができなかった専門外来クリニックの立場から私という3人です。「必要か否か」というテーマに対する私の答えは「否」であり、講演タイトルもズバリ「NIPTの認証制度は不要である」で臨みました。

 なお、学会のプログラム上やポスターなどで、「認定基準」という言葉が使われていましたが、以前に日本医学会内に設置されていた委員会で扱っていた際には「認定」としていたものを、新しい委員会では「認証」という名前にしていますので、ここでも基本的には「認証」という言葉を用い、以前の基準に関連した内容やプログラムについて言及するときにのみ「認定」という言葉を用いることにします。

 

対立軸がやや変化したが、私の立ち位置は明確

 実はこの企画、組まれた当初は「外来専門クリニックでのNIPTは是か非か」で、私と久具先生がサシで対峙するはずだったのですが、今回の新しい認証制度によって、これまでNIPTを扱うことができなかった外来クリニックでも、NIPTを実施することが可能となったため、急遽テーマが変更され、登壇者を追加して三すくみの形になったという経緯があります。私自身は、これまで旧認定制度による施設認定をめぐっては実際に久具先生とやりとりしてきた経緯があり(このブログの過去記事にもその経緯は示してあります:以下リンク)、室月会長より与えられたこの場にこれまでの忸怩たる思いをぶつけようと意気込んでいたのですが、ちょっとややこしい形になって、誰とどう議論する形にまとめるかちょっと迷いました。しかし、発表スライドを作成する過程で、考えがクリアになっていき、話をまとめることができました。

 まず結論的には、タイトル通り、NIPT認証制度は不要というものです。では、認証を得ないまま検査を実施している施設を容認するのかというとそうではなくて、正当な専門家ではないような人たち、具体的には普段妊婦の診療などやったことがないような人(美容外科医や内科医など)たちが、知識も経験もないまま採血だけという手軽さを良いことに手を出すことは正しくはない。しかし、妊婦さん達にとっては、産婦人科医が押さえつけられていてアクセスが悪い分を補完してくれているところがあることは必要悪で、検査自体の信頼性が高いならば、そこで検査を受けることは現状仕方がない。と捉えている。問題は、そういう状況を作り出してしまった認定制度の存在であるという主張になりました。

 簡単にいうと、これまで認定外で検査を行ってきた(また現在も行っている)ような人たちは問題外で、議論の相手にもならない。しかし、そういう存在が必要悪として増加し、悪貨が良貨を駆逐する形になってしまっているのは単に厳しすぎる認定(認証)制度の継続のせい。ということです。

 そもそも何のために認定制度が必要だったのか。これはあくまでも臨床検査に参加するための要件だったはずです。本来なら臨床研究が終わった時点で、他の検査と同様に一般臨床に組み込まれるべきものだったはずなんです。たとえば、超音波検査、クアトロテストなどの血清マーカー検査、羊水検査や絨毛検査など、さまざまな出生前検査が、一般臨床として特に認証基準などなく全国津々浦々の産婦人科で普通に行われているのです。それがなぜNIPTだけこのようなおかしなことになってしまっているのか。

 

妊婦目線で考えるなら、認証制度はない方が良いと皆考えていた

 さて、実際のディベートですが、蓋を開けてみると私の対極に存在しているはずだった久具先生のご発表も、実は私の主張と大差がないとも言えるものでした。私はなんとなく拍子抜けしたぐらいです。多分、元々のテーマ「外来クリニックにおける・・・」だったなら、対立意見として議論になったのかもしれませんが、認証制度の必要性という点については、概略まとめると以下のような意見になっていました。

「純粋に妊婦目線で考えるなら、認証制度が撤廃されればアクセスも良くなり、受診のハードルも低くなる。しかし、一方で産婦人科医の中には、出生前検査に関する正確な説明やその対象となる疾患に関する知識及び対応が、まだまだ不十分なものも多いので、産婦人科医自身のリテラシーがもっと高まることが前提である。」

 要するに、認証制度などなくなる事が理想と言わんばかりの話で、この点については私の意見と一致していました。ただ、やはり一致していない部分はあり、私の反論としては、さっきにも書いたように実際にNIPT以前のもっと曖昧で取り扱いが難しいと思われる検査(例えばクアトロテストに代表されるような血清マーカー検査)や、一定のリスクを伴うような侵襲的検査(羊水穿刺など)は、なんの制限もなく産婦人科医によって実施されているのに、NIPTについてのみ制限をかけることは明らかに矛盾しているというものです。

 なお、栗原社長は、必要とされるものを必要としている人に提供できる体制を構築するべきで、認証制度というものはあってもよいが「認可」ではないので、非認証施設も含めた業界づくりが理想というような話でした。私は出生前検査について、産婦人科以外の診療科の医師に扱わせることなど根本的にあり得ないという立場ですので、私たちが長年いろいろと議論しつつ慎重に進めてきたこの扱いの難しい問題に関わる検査について、浅い認識のもと安易に扱って欲しくないという気持ちしかありませんでした。会場の参加者の中には批判的意見をぶつけたいという人も居られたことと思いますが、私はあまり議論の相手にするつもりもなく、何しろ産婦人科医の手によって普通に検査ができるようにすることが理想という立場を貫きました。

 

産婦人科医どうしでの信頼感が足りない?

 産婦人科医自身のリテラシーが高まらないと、認証外施設と同様に検査が安易な扱われ方をして良くない、と危惧する声が出てくることは理解できます。私自身、普段からリテラシーの高くない産婦人科医によって、あまり正しくはない説明を受けてきたような方をよく見ている立場ですから。しかし、現実的にNIPT以外の検査は普通に行われ続けているのだし、産婦人科以外の医師たちによって適当に検査のみが広がってきてしまっている中、日常的に妊婦を診療する立場である産婦人科医のみを制限の対象にすることが、正しい道筋なのでしょうか。卒後教育など、努力してリテラシーを高めていくことはもちろん必要ですが、検査を扱えない立場に留めおきつつハードルを課すことよりも、実際に現場で経験を積みつつ学んでいくことの方が、より確実ではないでしょうか。そんな中で、質の悪いものは淘汰されていく、全ての医療分野で難しい技術や新しい知識の扱いはそういう形を取られてきたのではないでしょうか。そしてむしろ、もし制限をつけて管理するとするならそれは、絨毛検査や羊水検査といった技術的な違いが明らかかつリスクを伴う検査を対象として行うべきではないでしょうか。そもそも産婦人科医というだけで、もう立派な専門家であるはずなんですから、学会は内輪で卑下して自分たちはまだまだだというのではなく、会員の専門性を認めつつ、レベルの低い会員について指導していく立場を取るべきでしょう。日本産科婦人科学会は、もっと堂々と、学会員は専門家集団だという主張ができるべきです。

 ディベートの結果は、単純にいうと大勝利といって差し支えないものでした。開始前のアンケートで、必要6割、不要3割だったものが、終了後には必要3割、不要6割と逆転しました。まあ、必要側の代表者の意見が、究極的にはなくなるのが理想というような結論だったので、さもありなんというところではありますが。

今回はホームタウンディシジョン的な面も

 ただし、今回のこのディベートが、どちらかというとあまり言い合いになったりせずに、半ば粛々と進んだ(まあ私自身がしっかりと主張しつつも、抑圧されてきた立場としての個人的感情を前面に出したり他者を強く非難したりするような立場をとらなかったこともありますが)のは、この会自体の参加者のほとんどが産婦人科医であったことも大きいと思います。もともとこの学会の参加者が、「出生前検査・診断はきちんと発展して諸外国と方を並べた方が良いよね。」という考えの方が主流派だったからだと思います。しかし、実際にこの問題をもっといろいろな立場の方々も入れて議論しようとすると、強い反発があったり、思わぬ方向から否定的な意見が来たり、なかなか難しいものです。私の持っている印象でも、例えば私は日本人類遺伝学会の評議員でもありますが、そういった別の学会の場では、頑なに出生前検査に否定的な意見の方もおられます。

 例えば今回、厚生労働省主導で行われてきた専門委員会を経て、この国では長い間出生前検査についての情報提供を積極的に行わないことが是とされてきたものを、全ての妊婦を対象に情報提供を行うという大きな方針転換がなされたわけですが、そのための体制づくりやプラットフォームとしてのウェブサイトの内容公開があまり進んでいません。ここには、認証制度運営委員会やその下部組織である情報提供ワーキンググループのメンバー構成や人選が影響していると感じます。私たちが長年、妊婦さんやご家族、生まれてきたお子さんたちと向き合い、目の当たりにしてきた現状や、今ある問題など、本当にわかってくれている方々がどのくらい関わっておられるのだろうか、人によっては個人的な立場もあって偏りのないものの見方ができなくなってはいないだろうか、などどうしても心配にならざるを得ないようにも感じています。

 今回の学会では、一定の収穫はあったとは思いましたし、結果としては充実感を得ることができましたが、本当の議論はまだまだ続くものと考えています。

NIPTを実施する医療機関として認証を受けるための申請を行います。

ずっとシリーズで記事を書いてきた、出生前検査等認証制度等運営委員会のNIPT認証施設認定。私たちのクリニックも、いよいよ申請を行う運びとなりました。現在、書類の作成に追われています。

 NIPT実施医療機関としての認定を受ける申請は、実は私たちとしては2回目なんです。

 前回は、2018年7月でした。この時の顛末は、以下の二つの記事として書いています。

これはクリスマスプレゼントなんでしょうか?「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会より文書が届きました。 - FMC東京 院長室

 

【全文公開】「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会宛に返答を送付しました。 - FMC東京 院長室

 

まあ正直この時は、もともと認定は受けられないだろうなと思いつつ、いかにこの施設認定に問題があるのかについて、白日の元に晒したい、問題点について世間の人たちにもわかってもらいたい。という気持ちと、このままではいつまで経っても私たちが堂々とNIPTを行うことはできないだろうから、自分たちの正当性を主張し、増えつつあった美容外科や内科医などが扱ういわゆる”野良NIPT”との違いを明確にして、NIPTを行うことができない立場にある専門家を結集して新たなNIPT実施グループで検査を行う道を探ろうという計画を持って、徒労とも思えるような申請を行ったのでした。実際、私たちの反論に対する回答も、木で鼻を括ったようなもので納得のいくようなものではなかったので、腹を括るしかないという気持ちになったのですが、ちょうど同時期に、日本産科婦人科学会の暴走をきっかけとして国が動くことになったため、もうしばらく我慢をして様子を見ることにしたのが、2020年の初頭でした。

 

コロナ流行と野良NIPTの台頭でダブルパンチ

 

 しかし、ここからがキツかった。何しろ大手を振ってNIPTをオフィシャルに認められる立場で実施できるようになるのか否かの保証もない宙ぶらりんな状態で、延々待たされている。その間、野良NIPTの増加は勢いを増し、日本の出生前検査はひどい状況になりました。同時に、新型コロナウイルスの世界的流行の波がやってきて、妊婦の数は減り、人の移動は制限され、わざわざかかりつけではない東京のクリニックまで足を伸ばそうという人はかなり減りました。当院は存続の危機に陥りました。そんな中でも、出生前検査・診断については、やっと国が重い腰をあげたんだから、私たちは専門家として堂々と実施するのだという思いだけで、なんとか凌いできました。

 

いよいよNIPTの実施が現実的に

 

 さて、いよいよ私たちにも申請の時がやってきました。NIPT実施医療機関(連携施設)としての申請です。

 おそらく、これから申請を行うどこの施設よりも、出生前検査に関わる人員の質と量、診療実績、診療以外の活動などの点で、当院は突出した存在だと思います。それどころか、おそらく少し前にすでに承認を終えてこの7月から実施が始まっている基幹施設でさえ、当院と比較してはるかに脆弱な体制のところは多いことでしょう。きちんとした体制でしっかりと検査を実施し、その後のフォローアップも含めて対応していける自信があります。実際、NIPTだけ自院で扱うことができない状態であっただけで、他院で行ったNIPTの結果を受けて専門的対処が必要になった場合の対応など、時には今回基幹施設となった旧認定施設からも頼られる存在として活動を続けてきたことは、多くの専門家もご存知のことと思いますし、このブログを読んでいただいている方々にもお分かりいただけていることと思います。

 今後の流れは、7月22日までに申請書類を送り、承認が得られた暁には、10月よりNIPTを当院でも実施できる運びです。

 いよいよ当院が、出生前検査の専門施設として全てを網羅できる施設となります。これは長年の悲願でした。(本来なら初めからこれが当たり前の形だと思うんです。そうならなかったことについては、忸怩たる思いがあります)

 

本質をついたディベートプログラム

 

 私は、10月からNIPTを実際に行うことができるようになったとしても、この検査をオフィシャルに扱う事のできる施設として、「お上から認証いただいた。」というような気分にはなりません。以前からこのブログで何度か言及してきているように、そもそもこの検査のみが認証制度で制限されるという形自体が、正しい方向に進んでいないやり方だと感じています。今後も問題提起を続けていきたいと考えています。

 手始めとして、来たる9月2日〜4日に仙台で開催される、「第44回日本母体胎児医学会学術集会」の特別企画ディベートプログラムの一つとして、「NIPTの認証基準は必要か否か?」というテーマが設定されており、これに演者として登壇を予定しています。承認申請を行っている最中の立場で、いささかチャレンジングであると感じますが、忌憚のない意見を述べて来たいと考えています。

 ルールには従う。しかし、ルールを絶対視せず、ルールに問題点があればルール自体が改善できるように動く。言われたままに従順に行動するつもりはありません。まだ思春期の頃、校則に縛られつつ、そのおかしな点について常に問題視して変えられるものは変えなければならないと考え、行動してきた気持ちを、常に持ち続けていたいと考えています。