FMC東京 院長室

FMC東京クリニック 院長のブログです

たいへん勉強になりました。世界産科婦人科超音波学会。ー これからの超音波検査はどうなっていくのか。

ウィーンで開催されていた世界産科婦人科超音波学会、本日が最終日でした。いつもながら刺激的な学会で、世界のエキスパートが出してくる超音波画像の素晴らしさは、目を見張るものでした。診断専門施設を運営する立場としては、同等のレベルを実現し、且つ保っていかなければならないと痛感しています。

私たちがメインの仕事としている妊娠初期の精密超音波検査。わが国ではほとんど普及してきませんでしたが、他の先進諸国では基本的な検査として、幅広く導入されています。しかし、ここ数年でその考え方、扱いは変化してきました。

何よりも大きかったのは、日本では「新型出生前検査」と一般的には言われている、NIPTの導入です。もともと、妊娠初期におけるNT計測を中心に据えた超音波検査は、染色体異常、とりわけトリソミー(その代表的なものがダウン症候群)の早期検出がその主な目的として開発されてきました。そこにNIPTが出現して、この目的での超音波検査の意義が少なくなったのです。NIPTがあるんだから、妊娠初期に一所懸命NT計測を行う意義は薄れるのではないかという考えが出てきました。

私たち自身、染色体異常の有無に関わらず、胎児の異常について詳しい観察を行うとするなら、妊娠中期の超音波検査に大きな意義があると考えてきましたし、すでにNIPTを受けた方や、受けることが決まっている方には、妊娠中期の超音波検査をお勧めしてきました。

NIPT時代の妊娠初期超音波検査はどうなるのか、この話題は少し前からよく語られるようになっており、私たちもよく話題にしていたのですが、結論的にはこの時期の超音波検査の意義は薄れないということが明確になってきたようです。

もちろん、これまでのようにトリソミーを検出するという点については、その役割はNIPTに譲る部分が大きくなることは間違いありません。しかし、NIPTも確定診断ではありません。ごく少ないながらも、NIPTでは偽陰性であったものが超音波検査でわずかな所見が見つかって、確定診断に進んでトリソミーが判明することもあります。また経済面から見て、NIPTの前段階の選別方法として超音波検査を利用する意義もあります。

しかしそれ以上に重要なことは、NIPTが対象としている染色体の数的異常以外に、もっと様々な胎児の異常、それも重篤な症状を呈するものがより多く存在することです。染色体の微細な欠失や、染色体レベルでは異常が見つからなくても、遺伝子レベルの変異が原因となるものが、数も種類もたいへん多く、そういったものを早期に発見するためのツールとしては、今のところやはり超音波検査にアドバンテージがあります。そして、超音波診断装置と診断技術の進歩は、胎児の様々な異常を見つけるための検査時期を、妊娠中期から妊娠初期へとシフトして行くことに繋がりました。NIPTさえ受けていれば安心で、あとはわずかな問題を対象に妊娠中期に超音波検査を行えば良い(日本ではこれすらまともに行われていないことが多いのですが)という考えは、古いものになりつつあります。

もちろん、まだ小さい妊娠初期の胎児を対象とした検査には、限界もあります。全ての問題が見つかるわけではないし、何か気になる所見があったとしても、はっきりとした診断には必ずしも繋がらないことが多々あります。いたずらに不安を煽るだけの結果になってしまう危惧もあるでしょう。診断がはっきりしないのに妊娠中絶の選択につながってしまう恐れから、検査に反対したり消極的な姿勢になる医師もいることでしょう。しかし、そういった問題があるとしても、この時期の検査技術の進歩が止まるわけではありません。検査そのものを否定するのではなく、そこで起こってくる新たな問題にどう対処すれば進歩を生かすことが可能になるのかを考えるべきでしょう。

私はこういった問題に向き合うためにはやはり、検査前後のカウンセリング体制の充実が必要であろうと考えます。私たちのクリニックにおいて、超音波検査を担当する医師がより詳細な所見の発見に邁進できるのも、その前提となる検査前の情報提供と同意、そして検査結果を受けてのカウンセリングの体制がしっかりしたものであるからに他なりません。

当クリニックでは、NIPTを受けた、あるいはこれから受ける方に対して、それなら超音波検査は中期にというのではなく、妊娠初期の段階から詳細な観察を行う新しいメニューを加えることを検討しています。具体的な手順が固まったら実行に移す予定です。

たいへん刺激的な国際学会

ウィーンで開かれている、27th World Congress on Ultrasound in Obstetrics and Gynecology(世界産科婦人科超音波学会学術集会)に参加しています。

世界のエキスパートの技や知見を学べる機会として本当に有用な学会なのですが、その中で、あまり国内の学会では見られないような、たいへん刺激的なディスカッションがありました。

2011年から2014年にかけてイギリスの16の胎児診療センターが参加して行われた、前方視的コホート研究「MERIDIAN trial」の結果を受けて、超音波検査・診断はどのようになっていくべきかというテーマのセッションでした。この研究は、胎児の中枢神経系の異常の診断において、超音波診断とMRI診断との成績を比較したもので、MRIの優位性が示されており、この結果に関連した論文が、世界的に権威の高いことで知られている医学誌The Lancetに掲載されています。この結果に、超音波診断の世界で著名な医師達が噛み付いたのです。

学会場でこの研究結果に対する疑問点について述べた先生方(一人はイタリア、もう一人はイスラエルの医師でした)の注意喚起は、すでに同じThe Lancetにも掲載されているのですが、それだけでは足りなかったのか、国際学会の場でこれでもかとこの研究に対する疑問点・問題点を挙げつらい、ついにはイギリスの胎児診療センターの医師達は、もっと胎児の脳神経の超音波診断について、しっかりとしたトレーニングを積むべきだとまで言いだしましたが、今回の会場は東ヨーロッパということもあってか、全体に好意的な反応でした。この後、イスラエル人の座長と会場から質問に立った医師との間で熱い議論になり、終了時間が伸びてしまったのも驚きでした。権威のある医学誌に乗った論文だからといって簡単に受け入れてしまわず、しっかりと疑問点をぶつけ、堂々と主張する姿勢は素晴らしいと感じました。こういう議論を経て、科学は進歩するのだということが実感されます。

もう一つ、世界の様々な国から来た研究者・臨床家がそれぞれの発表をした後に、グループディスカッションを行う小さいセッションも興味深いものでした。

日本では「新型出生前検査」と呼ばれているNIPTと、私たちが日常行なっている妊娠初期のコンバインド検査(超音波検査+血清マーカー検査)、そして確定的検査としての絨毛検査・羊水検査について、その検査結果の解釈が困難であったケースや、予想外の結果が判明したケースなどといった難しい問題に対処するために、どのように検査を組み合わせて正しい答に結びつけるか、検査を進めていき解釈を行う上でどのような注意が必要かという議論が目の前で行われます。その前提として、国は違っても同じ検査が行われていて、検査技術が進歩するとともに新たに出現する問題点について、同じ土俵の上で議論できるという事実があります。この種の検査の導入、進められ方という点において、ここ20年特殊な道を歩んで来て、今も特異な状況の只中にいる日本の研究者・臨床家はどうあがいてもこの議論に加わることができません。活発な議論に刺激を受けると同時に、寂しい気分になりました。

国際学会に参加すると、日本はやはり極東の辺境にある国なのだということが実感されます。それでいて、メインフロアの機器展示ブースでは、日本企業が何社も並んでいるのが実に不思議な印象で、学問を生業とするものがもっと活躍できるような環境づくりと教育を考えないといけないと感じました。

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学会が行われているAustria Center Vienna

ISUOG(世界産科婦人科超音波学会)に参加しています。

ウィーンで開催されているISUOG(世界産科婦人科超音波学会)に参加しています。当院の関係者では、心エコー外来を担当していただいているDr. 川瀧元良が一緒です。

日頃いろいろな仕事に携わっている中で超音波検査・診断にも関わるお医者さんたちと違って、日常診療のほとんどが超音波検査である私にとっては、この学会は最重要かつ最有用な学会で、プログラムの一つ一つが刺激的かつ勉強になりますので、朝から夕までみっちり参加して、観光の余地がありません。宿泊先も学会会場の近くにとってしまったので、街並みを楽しむこともできません。せっかくなので帰るまでには少しは観光もしていきたいとは思っているのですが。

さて、こういった国際学会に参加して海外からの報告などを聞いていると、日常診療の中で接している国内の一般的な診療とのギャップが、年々大きくなっているのではないかという気がします。特に胎児について観察し、診断するという点において、日本の現状はかなり遅れをとっている感があり、海外の状況との差は、私がまだ若かった頃と比べても、広がる一方という印象があります。過去には何人かの偉大な先達がこの学会でも活躍され、当院の最高顧問になっていただいている竹内久彌先生もそのお一人として、本学会のGold Medalを授与されておられるのですが、このところ日本人があまり目立たなくなってきているようです。診断装置のメーカーとしての日本企業は頑張っているのですが。自戒の念も込めて、もっと積極的に発信していけるようにならないとという気持ちになりました(ちなみに私は今回2演題発表しているのですが、抄録の内容のインパクトがいまひとつと判断されたのか、2題ともあまり目立たないe-posterに回されてしまいました)。(自分の興味に従って行動しているためにあまり気づかなかったのですが、日本の若者も何人か頑張って発表を行っていることに今朝になって気がつきました)

もちろん、日本にも優秀な若手医師は大勢いるし、新しい知見や技術を手にすることに積極的な姿勢を持つ人も多いのです。しかしながら、そういった人たちが活躍できる場があるのか、この国の産科医療の中で中心的な存在になれる可能性があるのかというと、現状ではそうはいかないだろうと思えます。

何が問題なのでしょうか。

おそらく日本では、妊婦健診のシステム自体はよく機能しており、世界に誇るべき周産期死亡率の低さなど、素晴らしい面があるのです。ところが、胎児を観察し、診断・治療を行うという面においては、その方法のスタンダードが確立していないという問題があります。これは、日本における妊婦診療の特徴の一つである、小規模で勤務医師数も少なく、一施設あたりの分娩数も少ない施設が全国に数多く散らばっており、それぞれが独自の診療を行っていることが原因になっていると思われます。こういった施設で分娩を扱う医師たちの多くは、日常診療で手一杯で、新しい知見や技術を学ぶ機会に恵まれません。過去に受けた教育に基づく知識や方法にとどまって、変化についていけなくなってしまっていることも多いのです。妊娠のどの時期に、どのように胎児を観察するかのスタンダードづくりも、思うように進んでいません。日本中のどの施設に通っている妊婦でも均一な検査が受けられることを目指すことを考えた時に、どの医師が行ってもできることを前提においてしまう考え方が、基準を低くしてしまうという問題につながっていると思われます。どの医師が行っても可能な基準を作るのではなく、医療のレベルをある程度の高さに保つために必要な基準を設定し、その基準に達することが困難な医師が多いのであれば、医療のシステムそのものを変化させるように考えるべきではないでしょうか。具体的には、普段の妊婦健診と詳細な超音波検査とを分けて、検査についてはそれを行うことのできる医師の診療を受けられる仕組みづくりが必要だと考えます。これを全員が受けるべきなのか、希望者のみとするのが良いのかについてなどやり方はいろいろとあると思います。しかし少なくとも、希望しているのにもかかわらず受けられる機会がないということは無くすべきでしょう。こういった変革が、医療のレベルアップにつながり、ひいては受診者(妊婦さん)にとってより良い医療にしていくことにつながると私は考えます。

国際的には、産科・婦人科領域の超音波検査・診断だけに特化した学会が、これだけの大きな規模で開催されていて、日本からも多くの若いやる気のある医師達が参加しているのに、日本に帰るとその活躍の機会が限られているというのは、残念でなりません。医師の役割分担を明確にすることは、仕事そのものを魅力的にし、疲弊を防ぐことにもつながると思います。良い形を作ることは簡単ではないかもしれませんが、このままで良いととどまっているわけにはいかないと感じました。

 

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ウィーンのシティホールで開催されたコングレス・パーティーの模様

日本産科婦人科学会が妊婦さんに呼びかけた「お知らせ」、何が問題か。(1)

 

 前回記事で取り上げました、平成29年8月26日付で出された「お知らせ」、

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(NIPT)」を受けることを考えている妊婦さんへ

の問題点について、記載しておきたいと思います。

もう一度、内容のおさらいです。

安心してNIPTを受けていただくためには、①検査の目的は何か?、②どのような妊婦が検査対象となるのか?、③結果をどのように解釈すべきか?、④結果をうけてどのように行動すべきか?、などについて、検査の前後に、遺伝学の知識を持つ専門の医師による遺伝カウンセリングを受ける必要があります。

これは大事なことで、特に現在、非認定施設での検査においては、③④が省略されているために、結果に困惑されて当院に相談に来られる方も散見されます。ただ、この文章の後半、“遺伝学の知識を持つ専門の医師による遺伝カウンセリングを受ける必要があります。”の部分が問題なのです。

当ブログ2016年12月1日の記事(NIPTを行うための指針とは?)にも転記したのですが、この遺伝カウンセリングは、『遺伝に関する専門外来』で行い、『1項で挙げた専門職のすべてが直接関与することが望ましい』とされています。専門職のすべてが直接関与することが現実的なのかという問題もあるのですが、必ず医師が関与すべきということも正しい方針とは思えません。

そも③結果をどのように解釈すべきか?、④結果をうけてどのように行動すべきか?という問題に関しては、最終的には自分自身で判断することが大事だし、それを可能にするための支援の場が遺伝カウンセリングなのですが、これを医師が行うことが本当に適切なのでしょうか。

我が国においては、認定遺伝カウンセラーの数はまだ多くはなく、その中でも臨床現場で活躍の機会を与えられている遺伝カウンセラーの数は少ないという現状があります。このため、臨床遺伝専門医が主体となって遺伝カウンセリングが行われていることが多いようです。ともすれば、認定遺伝カウンセラーがいても、医師の補完的役割しか与えられていないような場合もあるようで、本来は専門的知識をもとに非医師の立場で関わることができる職種であるはずの認定遺伝カウンセラーの役割が軽視され、医師主導で物事が進められています。

それでは、臨床遺伝専門医が質量ともに充実しているのかというと、決してそうではありません。日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で運営している臨床遺伝専門医制度委員会では、2011年度から2013年度にかけて、専門医の受験資格について暫定制度を実施しました。これは、それまではこのどちらかの学会の3年以上の会員歴や、専門医研修が必要であったところ、それらを免除して各診療科の専門医資格取得後3年を経過した医師に、受験資格を与えたものです。この措置には、これからの医療の世界において遺伝学的知識を持った専門医の存在がより重要になることが考えられることや、上記二学会の会員数増加を目論んでという意味もあったのではないかと思われますが、これによって遺伝カウンセリングに必要な知識や技術が十分ではないことが危惧される専門医が生み出されました。このため、暫定制度合格者のための遺伝カウンセリングロールプレイ研修会というものを、後から作って専門医の知識・技能レベルの底上げを計らなくてはならなくなったのです。

③結果をどのように解釈すべきか?、④結果をうけてどのように行動すべきか?という問題に関して、最終的には自分自身で判断する上で、遺伝カウンセリングの役割は大切です。遺伝カウンセリングを行う者は、自己判断の助けになるべくサポートし、自己決定を尊重しなければなりません。しかし、医師ー受診者関係というものは、往々にしてそういうものにはなり得ません。受診者は、判断を医師に委ねがちになるし、医師は指示する態度になってしまう恐れがあります。こういった点で、非医師である遺伝カウンセラーの役割は重要なのです。

日本産科婦人科学会の「お知らせ」では、遺伝学の知識を持つ専門の医師による遺伝カウンセリングを受ける必要があります。というようにしか書かれていません。遺伝カウンセリングは医師が主体となって行うものであるような表現なのです。もしかすると、日本産科婦人科学会の指導的立場にある先生方は、遺伝カウンセリングを行う中心的役割はやはり医師でないといけないとお考えなのではないかと思われます。遺伝カウンセラーの役割を尊重していないし、遺伝カウンセラーを信頼していないようですし、もしかしたらイフェンカウンセリングというものの本質を理解しておられない可能性すらあるのではないかと思われるのです。

ところが、多くの認定施設で遺伝カウンセリングを行う役割を担っている臨床遺伝専門医は、同時にそのほかの臨床業務において中心的役割を担わなくてはならない立場の医師であることが多く、そうでなくても忙しい産科・婦人科の日常業務の中、遺伝カウンセリングに時間を割かれるのは大変な負担になってしまいます。遺伝カウンセリングを行う役割を医師に求めるのは、無理があるように思えます。そのような状況で、適切な遺伝カウンセリングが本当に行われているのかも疑問です。

分娩を扱う規模の病院で産科と小児科の専門医が揃っていて、そのどちらかが臨床遺伝専門医の資格を持っていれば、NIPTを行うことができるという施設基準のため、遺伝カウンセリングの内容はともかく、臨床遺伝専門医の資格を持った医師を養成することに主眼が置かれている現状だと思われます。

過去記事(NIPTだけを厳しい指針で規制することによって何が起きているのか?(3)-遺伝カウンセリングは免罪符なのか)でも触れていますが、いつも遺伝カウンセリングが大事だと声高に語られているわりには、遺伝カウンセリングが本来あるべき形で行われているとはあまり思えないし、単に通過すべき関門のように扱われている印象が否めないのです。

日本産科婦人科学会が妊婦さんに呼びかけた「お知らせ」には、どういう意義があるのだろうか?

平成29年8月26日付で、日本産科婦人科学会が、妊婦さんに向けて「お知らせ」を出しました。以下のようなものです。

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(NIPT)」を受けることを考えている妊婦さんへ

一部内容を抜粋すると、

安心してNIPTを受けていただくためには、①検査の目的は何か?、②どのような妊婦が検査対象となるのか?、③結果をどのように解釈すべきか?、④結果をうけてどのように行動すべきか?、などについて、検査の前後に、遺伝学の知識を持つ専門の医師による遺伝カウンセリングを受ける必要があります。

 

日本医学会では、NIPTを安心して受けられる体制が整った施設を、厳正な審査のもとに認定しています。これらの施設では、NIPTの施行前に、十分な遺伝カウンセリングを行い、妊婦および家族の皆様のご不明な点やご心配な事項に適切にお応えすることが可能です。また、検査後には、結果とその意義の説明だけでなく、その後の経過についても、適宜遺伝カウンセリングや心理的ケアを交えながら、適切に対応することとしています。

 

日本産科婦人科学会は、NIPTが実施認定施設で適切に行われ、妊婦さんが安心してNIPTを受けられるよう、今後とも努力してまいります。

 

ということで、

これは要するに、認定施設ではない施設がどう検査を扱っていることを問題視して、そのような施設では検査を受けないように呼びかけているわけなんですが、この呼びかけ、どのような効果があるのか大いに疑問です。

例えば、検査を希望する妊婦さんたちの受け皿としての認定施設が、十分に機能しているのなら、非認定施設を選択しないように呼びかけることには意味があると思います。以下のような場合です。

1. 認定施設が全国に配分されていて、検査を希望する方の受け皿として充足しているが、非認知施設が価格を下げたり利便性を高めるなどして検査を提供しようとしている。

2. 非認定施設が提供する検査そのものが、同様の検査であることを謳っているにもかかわらず、その精度や質の面で劣っている。

しかしながら実際には、現在の検査提供体制は全く充足しておらず、検査希望者が予約を取るのに四苦八苦しています。また居住している地域によっては、検査を受けることのできる施設までのアクセスすら容易でない上に、主治医を介さないと予約が取れなかったり、夫婦での遺伝カウンセリングが義務とされていたりするなど、実際に検査を受けるまでには多くのハードルが設定されていて、まるでなるべく検査しづらくしているようにすら感じることさえあります。希望する検査の予約が取れずに困っている状況で、より簡便かつ確実に検査が受けられる施設があれば、そしてその施設での検査そのものの精度には問題がなく、かつ価格が抑えられていれば、人々がそちらに向かうことは当然のことではないかとさえ思います。

現在、多くの検査希望者を受け入れている非認定施設の検査実施体制は、私から見ても酷いもので、きちんとした事前説明も結果についての説明も省略されているようです。このため、結果に困惑されて当院に来られる方も時々おられます。このような形で乱暴に検査を提供することは大きな問題です。しかし、認定施設がニーズに応えられていないなら、このような施設であろうと受診される方が多くなってしまいます。この事態は、日本産科婦人科学会(だけでなく日本医学会はじめ複数団体ですが)自身が招いたものでもあるはずです。

そして、このような「お知らせ」をしたところで、検査を受けることを思いとどまる人が増えるとは思えません。いったいどういう効果を期待してこの「お知らせ」を出したのか、よくわかりません。

本来やるべきことは、現在の提供体制で本当に良いのか、どうすればより良い体制になるのか、できるのかについて、早急に改善させていくことに力を注ぐことではないかと思います。

実際のところ、この「お知らせ」自体も、ツッコミどころが多々あります。それは次回に。

 

ついつい専門的になってしまって、すみません。− 胎児とはどういうものなのか、について。

学会関連の堅い話が続いたので、ここらで少し日常診療の話題を提供したいと思います。

実は、日常診療で気になっていることはたくさんあって、いろいろと書き溜めているのですが、文章がまとまってないものが多く、公開されずにいます。今後、まとまったものから公開していこうと思っています。

今回は、超音波検査中にいろいろと聞かれることの一つについてです。

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超音波診断装置の性能が良くなるとともに、妊娠の比較的早い時期から、素人目にも胎児が人間の形になってきていることが、はっきりとわかるようになってきました。

私たちが行なっている妊娠11週から13週の検査において、3D/4D超音波を用いて胎児の姿を立体的に表示すると、その時には外見的にはもうすでに人間の形が出来上がっていますので、もうすっかり人間なんだなあとお感じになると思います。人間の形をして手足を動かしたりすると、自分たちと同じように考えたり行動したりしている感じがするのも無理はないでしょう。みんないろいろと想像します。胎児はお腹の中で一体何をしているんだろうか?何を考え、感じているんだろうか?そして妊婦さんやご家族は私にいろいろと質問されるのですが、だいたい同じような疑問が湧くのかよく聞かれることがいくつかあります。

例えば胎児が動き回っていると、「赤ちゃんは寝ることがあるのですか?」と聞かれます。あるいは、動いていた胎児が動きを止めてしばらくじっとしていると、「寝ちゃった。」とおっしゃいます。これに対して私はいつも、「そもそもこの時期の胎児は、起きるということがないのですよ。」とクソ真面目に答えてしまいます。本当に申し訳ないと思うのですが、それが事実です。私の仕事は、胎児が検査時期に見合った発育・発達をしているかを見極めることですし、当院における検査は純粋にその確認を目的としています。受診する方々にとっては、想像の世界が広がることも情緒的には良いのかもしれませんが、当院で検査を受ける際には、基本的に科学に基づいた判断をしているということをわかっていただき、そういう冷静なものの見方の必要性についても、理解していただけるとありがたいと思っています。

胎児というものは、非常に未熟な存在です。妊娠8週や9週では、心拍は確認できるものの、まだ人間の形をしていません。10週でもまだお腹の壁は完成していません。11週ではじめて、人間らしい形になるのです。やっと外見的には人間らしくなったところで、検査をしているのです。外見的には人間のようでも、中身はまだまだ全然です。

胎児期の発育・発達の速度は、その後に生まれてからのどの時期よりも、急激です。ほんのわずかの間に、どんどんと複雑な構造が形作られていき、人間らしくなっていきます。それでも、生まれて来て数時間で立ち上がって歩き出す動物たちと違って、人間の赤ちゃんはまだまだ未熟なのです。ましてや、胎児はまだまだつくられている途中段階に過ぎません。

例えば、胎児がすごく元気に動き回っていると、「こんなに動いて、大丈夫なんですか?」、腕を顔の前で動かしていると、「顔をこすってる、なんか痒いのかな?」、3D画像を表示すると、「狭くて窮屈そう。」、などなどの声が聞かれます。なるほど、人間の形に見えると、もう人間として一人前のような感じがするのだなと思います。

胎児が子宮の中で一所懸命に(ということもないとは思いますが、、、)動いているのを見ると、いろいろな想像がかきたてられ、お腹の中の生命の存在を愛おしく感じることは、すごく良いことだとは思いますし、そういう気持ちを大切にしてあげたいとも考えます。しかし、それと同時に私たち専門家は、科学的事実に基づいて物事を冷静に判断することも忘れません。

実際には、胎児というものは未熟なものですから、まだ何も考えることはできませんし、何も感じていません。例えば羊水穿刺の際に針で突かれたとしても、痛くも痒くもありません。狭くて窮屈ということもないし、苦しいとか辛いとか感じることはありません。生まれて来た赤ちゃんだって、まだ何もわからないのに、妊娠初期の胎児に何かがわかるわけがないのです。こういうことを言うと、無粋に聞こえてしまうかもしれません。しかし、事実は事実なのです。

私は、一般の方々が、いろいろなイメージを持って、胎児に愛着を感じたり生命の尊さを感じたりすることは、とても大事なことと思っています。みなさん自由に想像していただいて、そう言う気持ちを家族で共有していただきたいと思い、検査時間の中でも、少しでも楽しんでいただける時間を作ろうとしています。しかし、医師などの専門家の立場としては、無粋なようでも、冷たく感じられたとしても、冷静に事実を伝えることも大切だと考えています。たとえば、赤ちゃんが生まれてくる前からいろいろなことを考えたり記憶していたりしているとか、親を選んで来たとか、そういった情緒的な話は、ある特定の場面や特定の人に対しては良い効果につながることももしかしたらあるのかもしれませんが、医師の立場で言うべきことではないと考えています。そして、一般の方々についても、あまり普段慣れていないかもしれないけれど、私の堅苦しい説明が、科学的なものの見方、論理的な考え方をしようと感じるきっかけになってくれれば良いと考えているのです。

と言うわけで、私は今日も無粋な話をして妊婦さんや家族の人たちをがっかりさせているかもしれません。「妊娠10週台の胎児の脳はまだまだ未熟なので、寝るとか起きるとかはないんですよ。起きると言う状態は、脳がだいぶ発達してから初めて明確になるんです。」などと訳のわからない説明をしたりして。

わが国におけるNIPTの今現在についてまとめておく (2)

NIPTがなぜ画期的だったかというと、それはなんといっても21トリソミーの検出感度が高く、見逃しが少ないことに他なりません。トリソミーという染色体異常は、妊婦の年齢が上昇するとともに増加することが知られていて、かつ近年、妊婦の年齢はどんどん上昇する傾向にありますから、トリソミーをもつお子さんの出生数も増加傾向にあります。しかし、わが国においてはそういったお子さんたちの生育を支援する体制の整備は、国レベルでも社会レベルにおいても遅れています。こういった状況から、妊娠・出産を考える女性の不安は高まっています。

現在、わが国においてNIPTの対象とされている妊婦は、『指針』のV-2 対象となる妊婦 によると、

1. 胎児超音波検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者。

2. 母体血清マーカー検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者。

3. 染色体数的異常を有する児を妊娠した既往のある者。

4. 高齢妊娠の者。

5. 両親のいずれかが均衡型ロバートソン転座を有していて、胎児が13トリソミーま

たは21トリソミーとなる可能性が示唆される者。

となっていますが、NIPTコンソーシアムの報告によると、受検者の平均年齢は38.3歳で、検査適応の94.2%は上記の 4. 高齢妊娠の者 ということになっています。

では実際に、高齢妊娠の者にあてはまる人たちのうちのどのくらいの人が検査を受けているのでしょうか。

コンソーシアムの報告では、2016年にこの検査を受けた人は13,600件です。NIPT実施施設はコンソーシアムに参加していない施設もありますが、それらを入れてもだいたい14,000件と言えるでしょう。一方、2015年に生まれた赤ちゃんのうち、その母親が35歳以上であった数は、282,159人です。NIPT受検者の全てが35歳以上ではないことや、比較する年の違いなど多少の増減はあるものの、おおまかにみて35歳以上の妊婦さんの中でNIPT検査を受けている人の割合は約5%にすぎません。

7月17日の記事:羊水検査・絨毛検査はどのくらい危険なのか?の中で、参考文献としてあげさせていただいた、斎藤仲道先生の論文の中にも、出生前検査に関する世界の状況についての記載がありますが、(それが良いことなのか悪いことなのかは別として)わが国の状況だけが他の国と比べて大きく違っているのだという事実を、もっと多くの人たちが認識するべきだし、なぜわが国だけがこれほどまでに違ってしまうのかについて、よく考察しなければならないと思います。

この記事を書いている最中に7月16日深夜に毎日新聞から記事が出ていたことがわかりました。新型出生前診断 増加続く 異常の94%が中絶

この記事の記載では、受診者は毎年増え続けている。とされており、それに続く中絶を選択する方がほとんどである旨の記載およびその後の文章とあわせて、“人々は中絶を目的として検査を受けて、命の選別をしようとする人の数は増え続けている”ことが強調されているように感じられます。このような文脈で記事が構成されることがたいへん多いのはなぜなのでしょうか。新聞社にはなにか画一的な規範があるのでしょうか?疑問に感じます。

ほとんどの妊婦さんは、はじめから中絶を希望しているわけではありません。赤ちゃんが元気に生まれてきてほしいという希望が検査を受けるベースにあります。中絶を選択した方たちも、いろいろな葛藤を経て、苦汁の決断をしておられるはずなのです。そういった方たちがまるで悪いことでもしたような論調、検査を受ける人が増えていることが問題であるかのような論調で述べられることによって、この検査を受けることについて必要以上の罪悪感を植え付けてはいないでしょうか。

現実には、増え続けているというほど増えてはおらず、むしろ検査を受けることを希望しておられる方々を十分にカバーできるほど提供体制は整っていません。そのために、学会の指針に従わずに検査を行っている施設に、かなりの数の妊婦さんが流れているという話を耳にしています。今の検査のありかたについて、早急に見直すべきであると思います。