FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

NIPTだけを厳しい指針で規制することによって何が起きているのか? (3) - 遺伝カウンセリングは免罪符なのか

先日、施設認定を受けずにNIPT検査をおこなっている検査会社と医療機関についての記事を書きました。

施設認定を受けずにNIPTを実施している施設 今はどうなっている? - FMC東京 院長室

このところ、ここで検査を受けた、あるいは受けるという方が当院にも連絡してこられるようになり、その方たちからの話によると、採血をおこなっているクリニックが、かなり混雑するほど人気があるようです。

ここでは、遺伝カウンセリングはなく、検査についての説明も、検査結果の解説も、対面で行われておらず、かなり手軽な手順で検査を行っています。施設認定を受けて検査をおこなっている施設との違いが大きすぎるので、この検査にかかわる状況は、ますます悪くなってきていると感じます。

認定を受けずに検査をおこなっている施設に行かれる方についての詳しい情報は入ってきていませんが、おそらく、年齢制限のために検査を受けることができない、35歳になる直前の年齢(34歳、33歳あたり)の妊婦さんや、35歳以上の方で、検査を希望していくつかの認定施設にあたってみたが、予約を取ることができなかった方、また夫の仕事やその他の事情により、夫婦で遺伝カウンセリングにいくことができない方などであろうと思われます。

ここで検査を受けた方の話を聞くと、この検査を扱う会社や医療機関についての信頼度が低く、検査結果についても不安に感じるという方も、何人かおられました。このような形で行われている検査に、多くの方が殺到するという状況は、なんとかしなければいけない問題だと思います。

これに対して、認定施設の側からは、遺伝カウンセリングをきちんと行っていないことが大きな問題であるという意見が聞かれます。

私は、ここにも問題があると感じています。

“遺伝カウンセリングが大事”という言説に対し、検査を受ける側はどの程度のリアリティを感じておられるでしょうか。

NIPTコンソーシアムの報告によると、この検査を受けた方のうち、98%の方が、検査陰性という結果を得ています。つまり、35歳以上の方に検査をおこなっても、98%の方は陰性と判断される検査なので、ほとんどの方は、安心を得たいという動機で検査を受けることが可能な検査であると考えられます。検査を受ける方にとって、できることならもっと手軽に検査を受けたいとお考えになることは、自然なことと思われます。

もちろん、そういった状況の中で、“陽性”という判定が出た場合に、驚きや混乱が生じることが予想されますので、検査の意義や意味についてだけでなく、検査結果に対してそのように解釈してどう対処すべきか、検査が目的としていることは何かなどについて、あらかじめ知識を得て、考えておくことは大事なことです。しかし、そういった機会である“遺伝カウンセリング”の必要性や、その意義について、私たち医療者は、きちんと理解していただけるように伝えることができているでしょうか。

検査を受ける方々のうち、少なからずの方が、検査を受けるために通らなければいけない関所のように感じておられるような話をよく聞きます。夫婦で検査について真剣に考えているように振舞って、おとなしくその時間を過ごすことができれば、検査を受けられるようになるというイメージです。まるで遺伝カウンセリングをうけることが、『世間的にはあまり望ましくないと思われている出生前検査』をうけることに対する、免罪符のように思われているように感じます。

遺伝カウンセリングをおこなっている側からも、「遺伝カウンセリングによって不安が軽減された」「遺伝カウンセリングについて、概ね満足しておられ、ポジティブに評価されている」などといった報告がありますが、その評価方法は本当に正しいのでしょうか。そもそも、遺伝カウンセリングは、不安解消を目的としているのでしょうか。

各施設で行われている遺伝カウンセリングそのものにも、施設によって違いがあることがわかっています。話し合われる内容も、費やされる時間も、一定していません。遺伝カウンセリングは、クライエントの置かれている状況によって、到達点は違うはずなので、一律に評価することは本来困難なはずであって、臨床研究として行われているNIPTのうち、最も多くの施設が関わっているNIPTコンソーシアムの研究課題が、“遺伝カウンセリングの研究”ということにも、違和感を感じています。

当院で遺伝カウンセリングをお受けになった方々から聞かれる、遺伝カウンセリングの感想の中に、「当初考えていたような場ではなかった。もっと倫理的な問題について諭されたり、本当に検査を受けるのか厳しく問われたりするのかと思っていた。」という声がよく聞かれます。世間の遺伝カウンセリングに対するイメージが、このようになってしまっている空気を感じます。今現在行われている、検査体制のありかた、臨床研究としておこなうという指針、遺伝カウンセリングの中身、いろいろと間違っているところがあるのではないかと感じるのです。