NIPTの話題で忙しくなっていますが、今週末ちょうどタイムリーに、日本超音波医学会第92回学術集会で、関連したワークショップがあり、登壇することになりました。
これは、この学会の「特別プログラム 産婦人科」の中の一つとして行われる、ワークショップ 産婦人科3 「妊娠初期スクリーニング ー超音波とNIPTー」と題された企画です。
**************************************************************************************************************
・特別プログラム ワークショップ 産婦人科3
妊娠初期スクリーニング ー超音波とNIPTー
座長:田中 守(慶應義塾大学医学部産婦人科学教室)
:左合治彦(国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター)
演題1. 初期スクリーニングにおける超音波検査の役割
長谷川潤一(聖マリアンナ医科大学産婦人科学)
演題2. NIPT時代における第1三半期超音波胎児検査の意義
中村 靖(FMC東京クリニック)
演題3. 遺伝カウンセリングの現場におけるNIPTの役割と限界
佐藤 卓(慶應義塾大学医学部産婦人科学教室)
演題4. 英国における妊娠初期超音波検査とNIPTの現状と課題
林 伸彦(FMF / NPO法人親子の未来を支える会 / 千葉市立青葉病院)
***************************************************************************************************************
この発表のためのスライド作りを鋭意進めてきましたが、日常診療を振り返りつつ色々と考えているうちに、表題の考えにたどり着きました。
どういうことか?
出生前検査・診断には、いろいろな方法があります。これまでにもいろいろな方法が用いられてきました。そして、NIPTもこれまでの方法と同様の目的を持った検査であって、歴史的流れの連続の中にあります。
それなのに、なぜかわが国では、NIPTのみが厳しい基準の元管理されています。厳密にいうと、それ以前よりある血清マーカー検査なども、「積極的には妊婦に知らせるべきではない」という姿勢の元、なるべく普及させないというのが日本における扱いでした。
しかし、超音波検査だけは違います。誰もができる検査として普及してきました。むしろ、妊婦健診を行う施設では、これがないと妊婦さんから不満が出る(よそでは必ず超音波で胎児を見せてもらえるのに、ここでは見せてもらえないなどと言われる)恐れがあるために、急激に普及しましたし、3Dや4D超音波で、胎児を見せることをサービスのように行なっている施設もあります。超音波は、今や産科診療にはなくてはならないものとなっています。
超音波診断装置は、誰にでも割と簡単に扱うことができます。詳しい原理や、細かい操作方法を知らなくても、ある程度機械屋さんが設定しておいてくれれば、妊婦さんのお腹にゼリーを塗って、探触子を当てれば、誰でも画像が出せ、リアルタイムで子宮の中が表示できます。大変手軽な検査方法です。
しかし、超音波で、何を見ているのか、何が見えているのかの判断は、医師によってかなり差があります。このことはあまりよく知られていないのか、妊婦さんたちは、産婦人科の医者なら皆同じように見ることができると考えている人も多いようです。私のクリニックで妊娠初期検査を受けた方から、妊娠中期検査はかかりつけでもやっているので、そちらで受けてもいいですか?と聞かれることがあります。どう違いますか?と聞かれることもあります。もっと踏み込んで、どこの病院ならきちんとした検査が受けれられますか?という質問があったりもします。しかし私たちは、これには明確には答えることができません。なぜなら、どの医療機関、どのお医者さんが、どの程度の検査を行っているかについては、実際に見てみないとわからないからです。従って「あまりよくはわからない」としか答えようがありません。たまに、学会などでよくお会いする専門家の医師の検査だということがわかる場合には、だいたいよくみてもらえているだろうとはわかりますが、そういうお医者さんは実は少数です。「まあそう大きくは違わないだろうからきちんとみてもらって、何か疑問があったら連絡してください。」などと言ったりしますが、実は内心では、「全然違うに決まっているじゃないか」と思っていたりします。私たちは、どの病院で行っている検査よりも緻密に見ることを常に意識して、検査に臨んでいます。専門医としての矜持があります。専門医と一般の医師とではやはり知識と技術が違うのです。(私は、超音波専門医・指導医ともに、臨床遺伝専門医・指導医でもあります。この二つの分野は出生前検査・診断の両輪として大切なものですが、実はこの両方の専門医である医師は、日本にもごく少数しかいません。両方の指導医という人は、私一人ではないかと思います(違っていたらすみません))
さて、この超音波で何をどうみているのかというのは大変重要で、それを痛感するのは、このブログでも何度か取り上げていますが、連日NT肥厚を指摘されたという方が来院される事実です。このNT計測は本当にこの国ではぞんざいに扱われているように感じられ、いいかげんな観察に基づいて、染色体異常に言及されたり、丁寧な説明もないままになっていたり、誤った説明を受けていたりすることがあまりになくならないので、どうしたものかと思っています。
これに比べると、NIPTは、かなりきちんとした検査で、何しろ医療機関では採血をすればよく、あとは検査会社がきちんとやってくれれば、その判断にはブレはほとんどないわけですから、超音波検査で検査を行った人の主観でいろいろ左右されるより、かなり安全な検査だと言えます。日産婦の出生前検査の指針にいつも書いてあるのは、検査の問題点として、「妊婦が検査結果を誤解する」などという文言ですが、これはNIPTではごくわずかしかなくて、むしろ超音波検査、特にNT計測では、医師の間違ったやり方や説明がそれを後押しして、多量に発生しているのです。しかし、超音波検査は当たり前に存在するものとして、医師はやりたい放題です。
NIPTよりも、誤解のかなり多い超音波検査を規制すべきではないでしょうか。
と、ここでは思いっきり書きましたが、実際の学会場では、ここまで過激な言い方はしない予定です(というよりここに焦点は絞っていません)。しかし、現在妊婦診療で行っている超音波検査のやり方を、根本的に見直さないといけないというのは、少し前からの私の持論で、この点については、機会があればうまく説明できれば良いなと考えています。