FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

「出生前検査に対する見解・支援体制について」課長通知が各自治体宛に発出されました。

6月9日付で、厚生労働省子ども家庭局母子保健課長および社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長名で、各自治体(都道府県、市町村、特別区)母子保健主管部(局)長および障害保健福祉主管部(局)長宛に、「出生前検査に対する見解・支援体制について」(令和 3年6月9日子母発 0609 第1号厚生労働省子ども家庭局母子保健課長通知、障障発 0609 第1号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長通知) という文書が発出されたことにつき、厚生労働省子ども家庭局母子保健課からの事務連絡が、日本産科婦人科学会宛に届きました。

 この文書は、以下のページで公開されています。 早速内容に目を通してみたのですが、まずはこれまでの議論の経緯と出された結論について、周知徹底を図ろうという目的のようです。厚生労働省のスタンスとしては、平成11年に専門委員会で「母体血清マーカー検査に関する見解」が とりまとめられて以来の国の審議会における議論ということで、国として出生前検査の周知について積極的ではなかったこれまでの方針を転換し、妊婦全員にしっかりと周知していこうという方針にすることや、そのために必要な原則的考え方、問題点と対処法など、話し合われた中身を周知し、体制を整えていくための第一歩とする文書という位置付けでしょうか。

 各自治体に対しては、『本通知の内容をご了知いただくとともに、適切な施策を講じられるようお願い』したいということです。また、『各都道府県・市の医療主幹部(局)、衛生主幹部(局)等の関係部署及び管内の市町村、並びに管内の医療機関等の関係機関に対して、周知いただく』ようにとお願いされています。

 『適切な施策』とは具体的に何なのか、というところなのですが、

・妊婦への情報提供

・相談支援

この二つの体制を整えることのようです。

 そのために地方自治体において活用可能な予算事業として、一つは、『女性健康支援センター事業』が想定されており、ここに予算がつくので、有効活用できる体制を整えよということのようですね。そしてもう一つは、『出生前検査に関する情報提供資材の開発』を実施し、ホームページなどで提供予定なので、これを活用せよという話のようです。

 ということで、少し前向きに進み出したようなので、あとは核心となる部分、つまり『検査の実施体制として、その施設の認定の仕組みや基準、構成および管理をどうするのか』について、早急に進めていただきたいと思いますし、現在横行している不適切と思われる医療機関での検査をどう規制する考えなのかという課題について明確にしてもらいたいと思います。それがないと、私たちは動きようがないのです。

苦しい立場に追い込まれつつ耐え続けてきました。

 NIPTの実施が、公的には日本の医学系学術団体の総本山といえる日本医学会の元で施設認定を行なって管理する形にされた一方で、その枠外で無制限にビジネス的に検査を実施する施設が横行することになった結果、その皺寄せを一番喰らっているのが、私たちの施設なんです。なぜなら、私たちには学会認定の資格を取得した専門家であるという矜持があり、かつ学会の評議員という立場もあるので、きちんとした手順を踏んで認定施設になるべく申請を出しても、『分娩施設をもたない』という謎の理由によって認定を受けることが叶わず、その一方で、クリニックの主力業務(というか業務のほとんど)が出生前検査なので、その中で現在妊婦さんたちから求められているこの検査を扱うことができないことは大きな痛手であるし、それどころかきちんとした資格を持たない連中が自由に検査を行うクリニックが周囲にどんどん増えて、本来なら当院で見るべき妊婦さんの多くをさらって行ってしまっているからです。

 一刻も早く体制を整えて、私たちがちゃんとした形で、堂々と検査を実施することができるようにしていただきたいと思います。