お産の予定日はどうやって決まるのか、みなさんご存知でしょうか。
分娩予定日は受精日を妊娠2週0日として計算することになっています。つまり、いつ受精したのかが基準になるわけですね。生命の始まりは受精卵ができた瞬間からだからです。じゃあなぜここが『2週0日』なのか。
これは要するに、いつ受精したかということが明確にわかる方法が、不妊治療(生殖補助医療)を行なっていない限りないからです。でも一般に、月経周期は28日型であることが多く、排卵し受精に至るのが14日目であることが多いので、月経の初日を0日として、14日目は2週0日になるのです。このことが、自然妊娠の場合に、最終月経初日から換算して予定日が決められる理由なんです。
でも、不妊治療(生殖補助医療)を受けている人の場合は、予定日が明確です。たとえば体外受精・胚移植をおこなった場合、体外受精から何日経過した時点で胚移植したかで明確に決定することが可能です。4細胞期の胚を移植したのなら、移植日が2週2日、8細胞期なら移植日が2週3日、胚盤胞移植なら移植日が2週5日といった具合です。
問題は、自然妊娠の場合です。便宜的に最終月経から14日目が受精日と仮定して予定日が設定されますが、月経周期には個人差があって、周期が比較的一定している人もいれば、全くバラバラでいつ月経が来るか予測ができないという人もいます。みんながみんなぴったり14日目に排卵しているわけではないのです。だからどうしてもズレが生じてしまうことになります。
分娩予定日が正確に決められていないと、その後の診療にも迷いが生じます。一番問題となるのは、胎児を計測した時にその数値と妊娠週数との間に違いがある場合です。たとえば胎児の計測値が小さかった場合、それが発育が悪いせいなのか、単に予定日がずれているだけなのかの判別がつかないのです。予定日を過ぎても生まれない場合、いつまで待っていて良いのか、いつから過期産になるのか判断できません。
私たちの診療も、予定日が正確に決められている前提で成り立ちます。胎児がその妊娠週数に見合った発育や構造をしているのか否か、予定日が不正確だと判断ができないのです。
産科外来での予定日の決め方の実際は?
では、自然妊娠の場合に、どうすれば正確な予定日を決定することが可能なのでしょうか。実はこの決定方法は、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が編集・監修している『産婦人科診療ガイドライン』に記載されています。この最新版『産科編2020』には、以下のように記載されています。
CQ009 分娩予定日決定法については?
Answer
1. 分娩予定日は妊娠初期(妊娠13週6日まで(本書を利用するにあたって参照))に、いつもの月経周期と最終月経、以下の情報より決定する。
1) 胚移植日か、特定できる排卵日。(A)
2) 妊娠8〜10週の頭臀長(CRL)や妊娠11週以降の大横径(BPD)の超音波計測値。(B)
2. 妊娠初期に妥当な根拠で決めた予定日を、中期以降の超音波計測値によって変更しない。
3. 分娩予定日を決定した根拠を診療録に明記しておく。(C)
4. Answer 1 の情報が利用できない場合、妊娠中期以降の児頭大横径(BPD)、大腿骨長(FL)などの超音波計測値を参考に予定日を決定する。(C)
5. 妊娠中期以降に分娩予定日を決定した時は、新生児所見の成熟度を確認する。(C)
(文章の最後についている、(A)(B)(C)は、推奨レベルを示します。)
これに続く解説には、以下のような記載もあります。
近年はむしろ、妊娠初期の適切に計測されたCRLによる妊娠週数は、最終月経からの計算と比べ正確であると考えられており、(中略)本書でも、月経歴と最終月経より推測された妊娠週数と、超音波計測値が乖離する場合は超音波計測による予定日決定を優先することとした。
予定日決定方法は、2020年版で改訂された
実はこの項目(CQ009)、同じガイドライン産科編の2017版から、2020版になるにあたって内容が変更されたのでした。2017版ではどうなっていたかというと、以下のような記載がありました。
・最終月経開始日からの予定日と正確に計測された頭臀長(CRL)からの予定日(CRLが14〜41mmの時期)との間に7日以上のずれがある場合にはCRL値からの予定日を採用する。(B)
つまり、7日以上のずれがなければ、超音波計測値よりも最終月経から決めた予定日が優先されていたのです。これは、胎児の大きさには多少の個人差があるだろうという考えと、7日以内なら予定日がずれていたとしても大きな問題につながる可能性は低いだろうという推察から導かれた結論と思われます。超音波で計測されていなかった時代を考えると、その頃はもっとずれていたことがあったはずだという経験的な感触もあったと思います。
今回、これが改定されたのは、やはりより正確に判断すべきという考えもあったし、生殖補助医療の発展とともに超音波による計測の妥当性やこの時期には個人差が少ないことが論文で示されたこともあったと思います。ガイドライン改訂に関しては、学会内でも議論がありました。ガイドライン本文には細かくは記されてはいませんが、この議論の中で、医師は様々な情報(たとえば排卵推定の助けになる他の情報(排卵チェック薬を使った判定や基礎体温など)や性交渉の日にちなど)を聴取して、総合的に判断すべきという話も学会側から出ていたと記憶しています。
しかし、この2017年版の記載(方針)は、じつはもっと以前から同じ内容だったこともあって産婦人科の先生方の間でだいぶ普及しており、そして2020年版で改訂されたという情報は、重要な情報として発信されたものの、あたらしい情報取得に積極的ではないドクターにはまだ届いていない印象なのです。
きめ細かさが欠落している医師も
不妊治療(生殖補助医療)によって妊娠してこられた方の場合、分娩予定日がずれていることはありません。そのような場合でも、なぜか妊娠初期から胎児のサイズが小さいケースがあって、そういう場合に何を考えるべきかは、これまでにどういうケースがあったかや、既に知られている学術的情報をもとに考察し、診療の次のステップに進むことになります。また、血清マーカー検査やこれを用いたコンバインド検査は、妊娠週数が正確でないと、その評価もわずかではあるものの、正確性が落ちることにつながります。つまり、予定日が正確に決められていることは、胎児に何か問題がないかを考える上で重要な情報なのです。ところが、時々どう考えても予定日の決定があまり正確ではないのではないかと思われるケースが存在します。そんなときにくわしくお話を伺うと、以下のようなケースが存在します。
・予定日は最終月経の情報をもとに決められたようだが、自分たちが市販の排卵チェック薬をつかって排卵日を推定し、性交のタイミングをとった日にちから考えた予定日とはちょっとずれているように感じる。このタイミングをとった話は、担当医には聞かれていないので話してはいないが、いつもちょっと小さいねなどと言われている。
・最終月経から決められた予定日と、超音波検査で計測した胎児頭臀長からみた予定日とが少しずれていたが、1週間以内なので月経から決めた予定日で良いと言われた。しかし、超音波での計測からの予定日の方が、自分の思う排卵日とあっているように感じている。
要するに一部の医師は、できるだけ正確に予定日を決めようという意識に乏しかったり、以前の決定方法(1週間ルール)が改定されたことを知らなかったりしているようです。このため、妊婦本人が排卵チェックをしていた情報や、夫婦の性交のタイミングはいつだったのかや、普段の月経周期は何日周期だったかなどといったきめ細かい情報収集を怠っているのです。
まあ中には、計測値をもとに3日ほど予定日をずらしたというケースで、当院で計測した結果、ずらさない方が良かったのではないかと思われるようなケースも存在しますので、計測の正確性という問題もあるにはあるのですが、計測が不正確であることを前提に考えるのではなく、正確に計測する知識と技術を習得して、丁寧な診療に基づいて予定日を決定していただきたいものだと思います。
胎児計測にもクセ?
そういえば、胎児の頭臀長の計測も、なんでこういう測り方するんだ?と思うような変な測り方をしているケースも散見します。特に多いのは、頭からお尻まで計測するはずのところ、お尻の先まで測らずに中途半端な位置でとまっているようなケースです。
どうも、頭臀長を計測する際に、いわゆる「お尻の山」を入れてはいけないということを教わった結果、その分やや短めに計測しているような人がいるようなのですが、では何を基準にここまで測るという場所を決めているのかということが全くわからない。これはおかしいと思わないのかと感じています。そうではなくて、お尻の山が画像上に入らない、胎児の正中の断面をきちんと出して、端から端まで計測しないといけないはずなんです。なにか間違ったやり方をしている先輩がいて、その先輩の教えにしたがっておかしな習慣がついているのではないかと感じさせられます。このようなケースが結構頻繁にあるので、ちょっと驚いています。もっと頭を使ってほしいと思っています。
予定日がちゃんとしているかも意識しよう
どうも妊娠週数と胎児のサイズとが合わないなあと思うような場合に、妊婦さん本人に「どうやって予定日を決めたかという話は聞いていますか?」と聞いても、よくわからないという方も多いです。医師や助産師が細かく説明してくれていないということもあるのでしょうが、妊婦さんたちにも、自分の分娩予定日は何を根拠に決まっているんだろうか?ということを意識してもらえるとより良いかなと思います。そういう思いもあって、今回書いてきた内容は、お医者さんに読んでもらってもう一度考えてほしいという気持ちもある(まああんまりお医者さんが読んでるとも思わないのですが)のですが、一般の妊婦さんやご家族にとっても参考になると良いと思っています。