FMC東京 院長室

                                                                  遺伝カウンセリングと胎児検査・診断に特化したクリニック『FMC東京クリニック』の院長が、出生前検査・診断と妊婦/胎児の診療に関する話題に関連して、日々思うことを綴ります。詳しい診療内容については、クリニックのホームページをご覧ください。

出生前検査認証制度等運営委員会が、医療機関(基幹施設)と検査分析機関を認証したことを発表しました。

いろいろドタバタしていたところ、前回記事から2ヵ月が経過していました。

 この間、学会発表やウィメンズヘルスリテラシー協会のオンライン講座での講演など、活動を続けていました。

 『NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針』を読む のシリーズを続けてきて、まだ道半ばの状況ですが、2022年6月16日づけで、認証医療機関(基幹施設)と認証検査分析機関が発表されています。

 いよいよ日本における出生前検査・診断が次のステージに入るといったところでしょうか。

 

 ブログを継続して読んでいただいている方はご存知のことと思いますが、私はこの国におけるNIPTの実施に関するドタバタをずっと注視しつつフォローを続けていました。もちろん、自分自身の仕事に直結していることなので、当然ではあるのですが、自分でも正直よく我慢し続けてきていると思います。客観的に見て、ひどい目にあっているとしか言いようがないと思うのですが、いかがでしょうか。

 さて、そんなドタバタに終止符を打つべく(?)、厚生労働省・日本医学会が、NIPT実施に関する新しい指針を定め、これに基づいて、医療機関(基幹施設)と検査分析機関について、認証したということが発表されました。これと同時に、今後、出生前検査・診断をきちんとした形で進めていくため、以下のサイトを立ち上げ、情報提供を行う体制が作られました。

jams-prenatal.jp

 この動きは、先日のオンラインセミナーでも言及しましたように、これまでのこの国の基本姿勢であった、「出生前検査に関する情報は、妊婦には積極的に知らせる必要はない」というものを大きく転換する画期的なものとなったと言えるでしょう。

 まあ正直、私の持つ印象としては、これまでの「積極的に知らせない」という姿勢が、一体いつの時代の感覚なのか?と思わざるをえないほどの封建的なやり方だと思いますので、今回の動きは遅きに失した感は否めないものの、何はともあれ前向きに進んだことは評価したいと思います。

 

今後『連携施設』の認証が進められていく

 今回の認証に合わせて、『連携施設』の申請も開始されました。

 私たちは、この『連携施設』としての認証を目指すことになり、期限内に書類を提出して認証を得るべく動きたいと思います。ようやくわれわれも、出生前診断専門施設としてまともな形で業務を行うことができる道が開けました。まだ認証を得たわけではありませんので気が早いかもしれませんが、指針の内容から考えて、認証を得られることは間違いないと考えており、胸を撫で下ろしているところですが、これまでにもこのブログで述べてきたように、この仕組みや指針の内容自体に納得しているわけではありません。

 認証を得ることができたとしても、認証していただいてありがたいなどと考えることもないでしょう。まだまだおかしなところ、不十分なところが残されていますので、今後も意見し続けたいと考えています。

 なんといっても、産婦人科医をきつく縛り付けておいて、産婦人科以外の医師たちによっておかしな形で検査を普及させてしまうことにつなげてしまったことは、日本産科婦人科学会や関連学会の不作為のなせる技であり、糾弾されて然るべきだと思いますし、十分な反省のもとに次のステージに進んでいただきたいと考えています。

 

空白県が無くなった

 今回の認証では、これまでNIPTの実施施設がなかった、青森県、長野県、三重県、佐賀県、大分県、宮崎県にも実施施設が配置され、空白県がなくなりました。このこと自体は妊婦さんにとって喜ばしいことだと思いますが、現体制ではまだまだ学会認定の仕組みを無視して検査を行なっている野良医療機関にはとても対抗できません。今後どのような形で正しい検査体制を構築していくことができるのか、まだまだ大きな課題が残されており、ようやくスタートラインに立つことはできたといったところでしょう。

 また、検査分析期間の一覧を見て気になったことがあります。それは、今回認証を受けた検査期機関の中に、学会の指針を無視して美容外科などのクリニックで検査を自由に扱うことができるように、そういったクリニックによって設立されたNIPT専用の信頼度の低い検査会社や、学会の認証を得られない産婦人科医に対してこっそりと検査を売り込んで資料などの提供も行なってきた、出生前検査を専門とするクリニックと密接な関係にある検査会社などが含まれていることです。今回決められた基準さえ満たしていれば、これまでどういうことをしてきたかは不問に付されるのでしょうか。正直のところ、許せない気分です。

 こういう狡いことをやってきた会社が、なんの御咎めもなくシレッと認証を受けることができている状況を見ると、これまで学会の指針に縛られて、受診者数激減に苦しめられながら、赤字を垂れ流しつつ、認証施設として大手を振って堂々と検査を扱うことができるように耐えてきたことが、本当に馬鹿馬鹿しく思えてきます。

 私たちも、いつまでも大人しく学会の言いなりになっているべきではないのかもしれません。